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ソーシャルサポートについて

🍅ここではパニック障害とは離れ、他者による支援(ソーシャルサポートsocial support))が患者にどのような影響を及ぼすかについての研究を取り上げてみます。人が何らかの危機に陥っているときに、他人の存在がありがたいと思ったり、他人に救われたという経験は誰もが持っていると思います。


1.ソーシャルサポートとは



🍅以下、稲葉ら(1987)、渡辺(1995)、小林(1997)、橋本(2009)、星・桜井(2012)、小関ら(2012)、福岡(2015)、神原ら(2016)、大坪(2017)、福岡(2018)による知見を整理します。
🍅ソーシャルサポートの定義についてはさまざまなものがあって、今日もなお一致していません。中には、曖昧な概念だからこの概念はないほうがよいと主張する学者もいます。
🍅その上で、大まかにまとめてみると「その個人を取り巻く特定の他者(専門職を除く)から得られる有形・無形の支援のこと、ないし、支援を受けているという感覚や支援を受けられるだろうという期待」がソーシャルサポートの定義となります。
🍅ソーシャルサポートは、1970年代に精神保健分野から提唱され始めた概念です。ある特定のクライシスやストレスが降りかかるとします。たとえば、大災害が起きて身近な人が亡くなったなどです。そのクライシスやストレスが生じたときに、ある人は後々PTSDを発症しますが、同じクライシスを体験した全ての人がPTSDを発症するわけではありません。この差は何か。それは、もしかすると個々人の性格であるかもしれないし、遺伝かもしれません。そして、その中に環境的要因があり、本人を取り巻く家族や友だちといった社会的な繋がりの有無の問題ではないかという仮説が現れました。これがソーシャルサポートの考え方の始まりです。


(1)ソーシャルサポートの機能
🍅ソーシャルサポートとは、具体的にどのようなものを指すのでしょうか。いくつかの分類が示されています。これをお読みの方も、実際に他者から支援を受けたこと、他者を支援したことを思い出しながらあてはめてみて下さい。
🍅以下、渡辺(1995)、橋本(2009)、長崎(2009)、本間・松田(2012)、星・桜井(2012)、神原ら(2016)、福岡(2018)による知見を整理します。

  ①情緒的サポート(感情によって支援する・される)
  ②道具的手段的実際的サポート(具体的なもの、お金や労力などによって支援する・される)
  ③情報的サポート(情報を提供する・される。②道具的サポートに含まれる場合もある)
  ④知覚されたサポート(何かあったときに周りからどの程度助けてもらえるかという予想
             期待見込みのこと)
  ⑤その他(所属的サポート、評価的サポート、問題解決志向的サポート、娯楽関連的サポー
       ト、交友的サポート などなど)


(2)ソーシャルサポートは量よりも質
🍅ソーシャルサポートは単に多ければよいというものではありません。すなわち、ソーシャルサポートは量ではなく質の問題であることがわかっています。友だちの数が少なくても、その質が良ければ充実するというものです。また、友だちが多い人であっても、あまり多すぎると本人の関係維持能力の限界を超えてしまい、逆にストレスになってしまうと考えられています(下グラフ参照)。

ソーシャルサポートと精神的健康との関連(グラフ)


(3)誰からソーシャルサポートを受けるかも大事
🍅以下、桑原・飛田(1995)、小林(1997)、青木・松本(2000)、廣岡・森田(2002)、鈴木(2005)、橋本(2009)による知見を整理します。
🍅ソーシャルサポートで重要なのは、どのような人からどのような内容のサポートを受けているかという点です。
🍅たとえば、私たちが他人から何らかのサポートを受けるときに、サポートの送り手を信頼していなかったり、人として尊敬できなかったり、あるいは、単に嫌いな人であったりすると、その人からサポートを受けても苦痛なだけで、逆に健康を害してしまう可能性があります。
🍅その意味で、ソーシャルサポートは誰がサポートしてもよいといった乱暴な考え方ではなく、重要な他者significant others)によるサポートでなければなりません。このことは、私たちが逆にサポートする側に立ったとしても同じことで、サポートの受け手から信頼されていないと、そのサポートの効果が表れなかったり、逆効果になったりします。
🍅この「重要な他者」は、サポートの受け手の発達段階によって異なります。すなわち、児童期までは家族(親)が自分を守ってくれる重要な他者の第一位ですが、受け手が思春期から青年期前半になると家族(親)との間に緊張関係が発生しやすいので、重要な他者の第一位は友だちに移行します。また、結婚すると配偶者という重要な他者を得ることになります。
🍅鈴木(2005)は中高年に対する調査から、最も期待しているソーシャルサポートが配偶者であること、近隣住民からのサポートをあまり期待していないことなどの結果を報告しています。また、青木・松本(2000)は高齢者の調査から、男性よりも女性のほうが広くソーシャルサポート・ネットワークを活用していると報告しています。
🍅ソーシャルサポートの受け手がサポートを得ようとすると、送り手に援助を求めるために自分のことをある程度は開示する必要があります。大した信頼関係のない人に自分の秘密や弱みを開示する人はあまりいません。八田(2012)は調査から、男性と女性とでは自分を開示する相手の選択に違いがあり、男性はトラブルやストレスの内容によって相手を変える傾向、女性は母親やきょうだい、同性の友だち、恋人を選ぶ傾向があると報告しています。


2.健康とソーシャルサポート



(1)健康全般とソーシャルサポート
🍅ソーシャルサポートの研究が精神保健領域から始まったものであるがゆえ、健康とソーシャルサポートをめぐっては「ソーシャルサポートが健康を増進する」という研究が圧倒的に多いです。
🍅小林(1997)は、以下の欧米の先行研究をあげています。

配偶者からのソーシャルサポートが男性に特に強く影響する(Thielら:1973;Helsingら:1981;Susser & Widowhood:1981)
・ソーシャルサポート・ネットワークが広い人とそうでない人では、そうでない人のほうが循環器系疾患による死亡率が高い(Berkman & Syme:1979;Berkmanら:1992;Frasure:1991;Rubermanら:1984;Kaplanら:1986)
女性は男性よりも大きめのソーシャルサポート・ネットワークを持っている(Unden:1991;Stephensら:1978;McFarlaneら:1981)
女性は男性よりも情緒的サポートを多く受けている(Unden:1991;Stephensら:1978;McFarlaneら:1981)


(2)ストレスとソーシャルサポート
🍅次に、ストレスとソーシャルサポートとの関連をみましょう。以下のような調査結果が報告されています(長谷川:2013;浦﨑・森川:2019)。

外交的な人は内向的な人よりも他者との相互作用が多いのでストレッサーに遭遇する機会は多いが、サポートを受けることによってストレスを緩和することができる(長谷川:2013)
内向的な人はストレッサーに遭遇する機会は少ないが、他者との相互作用がストレスと結びつきやすいのでサポートを受けにくく、ストレス対処において不利である(長谷川:2013)
・ソーシャルサポートを受けていると感じていることが心的外傷後の成長にプラスに作用する(浦﨑・森川:2019)


3.精神疾患とソーシャルサポートとの関連



🍅精神疾患とソーシャルサポートとの関連については、抑うつとの関連を問う研究が圧倒的に多いです。これには理由があるんです。それは、ソーシャルサポートの研究は精神保健領域から始まったものであるとはいえ、ほとんどが心理学領域(臨床心理学を除く)の研究者によって調査されてきた経緯があることです。心理学者の多くは精神疾患をめぐって、診療所や精神科病院に研究フィールドを持っていないことが多く、なので学生を調査するしかないんです(抑うつは健康な学生が対象であっても測定することができる)。


(1)抑うつとソーシャルサポートとの関連
🍅桑原・飛田(1995)、早川・鷲見(1997)、牧野(2006)、松本(2013)、上田ら(2014)、福岡(2015②)による調査から、以下のような結果が報告されています。

・与えられるソーシャルサポートが多いほど抑うつが低い(牧野:2006)
・自尊心が高い人の場合、友だちからの情緒的サポートと情報的サポートと充実感との間には正の相関があり、抑うつとは負の相関がある(桑原・飛田:1995)
・自尊心の低い人の場合、友だちからのサポートが抑うつを緩和させる効果が有効に働いていない(桑原・飛田:1995)
・自尊心の低い人は高い人よりも周囲からのサポートを低く評定している(桑原・飛田:1995)
・神経症傾向が弱い人はソーシャルサポートが抑うつを緩和する方向に作用するが、神経症傾向が強い人はそれが抑うつを増大する方向に作用する(≒神経症傾向が強いとストレス反応が増大し、せっかくのサポートが効果の限界を超えて有効に機能しない)(早川・鷲見:1997)
・ソーシャルサポートを受けたという感覚は受けた人の否定的自己イメージを抑制する(松本:2013;上田ら:2014)
・他者依存性の高い人は抑うつ傾向をもたらしやすいが、ソーシャルサポートの授受が減ることによっても抑うつ傾向が高まる(福岡:2015②)


(2)その他
🍅錦織(2010)は在宅の統合失調症患者を対象に調査を行い、女性患者は男性よりも情緒的サポートと道具的サポートを受けているという感覚が有意に高いことなどを報告しています。


(3)ネガティブ・インタラクションと精神的健康
🍅これまで、ソーシャルサポートは、それが肯定的に作用することを前提に述べてきましたが、援助する/されるという対人相互作用は悪い方向にも影響することがあります。ネガティブ・インタラクションnegative interaction)とは、否定的な相互作用のことです。ネガティブ・インタラクションは精神的健康と大いに関連しているといわれています。
🍅原田・杉澤(2015)は、先行研究や自身らの調査から、以下のような結果、知見を報告しています。

・ソーシャルサポートが与える肯定的効果よりもネガティブ・インタラクションが与える否定的効果のほうが大きい(ただし、これとは真逆の結果も報告されている)(Rook:1984;Finchら:1989;Schusterら:1990;Lincoln:2000;Okun & Keith:1998;Ingersoll-Daytonら:1997)
・配偶者や友だちとのネガティブ・インタラクションが精神的健康に悪影響を及ぼしている(Schusterら:1990)
・ソーシャルサポートの否定的側面(小言、文句を言われる、お節介など)が精神的不健康に影響する(坂田ら:1990;福川:2007)


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🍅以上、ソーシャルサポートについてやや荒削りにまとめてみましたが、同じ病気を持つ仲間をサポートして差し上げる際に是非お役立て下さい。


文献

青木邦男・松本耕二(2000)「在宅高齢者の精神的健康の実態とそれに関連する要因」『山口県立大学大学院論集』第1号、pp133-140.
福岡欣治(2015①)「親しい友人の日常ストレス状況体験におけるソーシャル・サポート提供と気分状態の関連性」『川崎医療福祉学会誌』第25巻第1号、pp175-182.
福岡欣治(2015②)「他者依存性とソーシャル・サポートが心理的健康に及ぼす影響―大学生の友人関係における実際のサポート授受に注目して―」『川崎医療福祉学会誌』第25巻第2号、pp201-207.
福岡欣治(2018)「ソーシャルスキルと知覚されたサポート,実行されたサポートが大学生の孤独感と抑うつに及ぼす影響―短期縦断的研究―」『川崎医療福祉学会誌』第27巻第2号、pp303-312.
原田謙・杉澤秀博(2015)「ソーシャル・サポート、ネガティブ・インタラクションと精神的健康」『実践女子大学人間社会学部紀要』第11集、pp63-77.
長谷川孝治(2013)「外向―内向性がソーシャル・サポート過程と精神的健康に及ぼす効果」『人文科学論集. 人間情報学科編』(信州大学人文学部)第47号、pp77-91.
橋本京子(2009)「クライシスにおけるソーシャルサポートと自己認知の関係について」『京都大学大学院教育学研究科紀要』第55号、pp89-102.
八田純子(2012)「青年期のソーシャル・サポート利用について(1)―ストレス対処としての自己開示―」『愛知学院大学心身科学部紀要』第8号、pp17-28.
早川清一・鷲見克典(1997)「神経症傾向および社会的支援の抑うつ症状に対する効果について」『応用心理学研究』第22巻第1号、pp1-7.
廣岡秀一・森田千恵子(2002)「中学生のストレスとソーシャルサポートに関する研究―ソーシャルサポートの緩衝効果を中心に―」『三重大学教育学部研究紀要(教育科学)』第52号、pp1-15.
本間里美・松田英子(2012)「ストレッサーと実行されたソーシャルサポートが無気力に与える影響―大学生における縦断研究―」『ストレス科学研究』第27号、pp64-70.
星旦二・桜井尚子(2012)「社会的サポート・ネットワークと健康」『季刊社会保障研究』第48巻第3号、pp304-318.
稲葉昭英・浦光博・南隆男(1987)「『ソーシャル・サポート』研究の現状と課題」『哲学』(三田哲学會)第85号、pp109-149.
神原広平・出口友絵・尾形明子(2016)「抑うつを低減する認知的統制に対するソーシャルサポートの効果」『パーソナリティ研究』第25巻第2号、pp174-177.
小林章雄(1997)「ソーシャルサポート研究における今日の諸問題」『行動医学研究』第4巻第1号、pp1-8.
小関俊祐・小関真実・高橋史(2012)「中学生の抑うつに及ぼす社会的スキルとソーシャルサポートの影響―質問紙による行動記録と自己評定の比較―」『ストレス科学研究』第27号、pp32-39.
桑原和彦・飛田操(1995)「自尊心の高低別にみた友人からのサポートと孤独感・抑うつ状態との関連」『福島大学教育実践研究紀要』第27号、pp27-32.
牧野幸志(2006)「高校生のソーシャル・サポートと精神的健康に関する教育心理学的研究―現役高校生と現役大学生との比較―」『経営情報研究』第14巻第1号、pp1-11.
松本麻友子(2013)「反すうと抑うつとの関連にソーシャルサポートが及ぼす影響―反すうの2側面に着目して―」『名古屋大学大学院教育発達科学研究科紀要. 心理発達科学』第60号、pp57-65.
森本寛訓(2006)「ソーシャル・サポートの互恵性と精神的健康との関連について」『川崎医療福祉学会誌』第16巻第2号、pp325-328.
長崎和則(2009)「精神障害者がソーシャルサポート利用を拡大するプロセスに関する研究―精神障害者のソーシャルサポート利用を促進するソーシャルワークのために―」『川崎医療福祉学会誌』第18巻第2号、pp373-382.
錦織可奈子・中谷久恵(2010)「在宅療養中の統合失調症患者が認識している訪問看護とソーシャルサポート」『島根大学医学部紀要』第33号、pp25-32.
野中雅代・稲谷ふみ枝・山﨑しおり(2010)「大学生の対人ストレスとストレス緩和要因との関連―ストレスマネジメント自己効力感に着目して―」『久留米大学心理学研究』第9号、pp24-32.
大坪岳(2017)「青年期のコミュニケーション・スキルとソーシャル・サポートがレジリエンスに及ぼす影響」『追手門学院大学心理学論集』第25号、pp13-25.
鈴木征男(2005)「中高齢者におけるソーシャル・サポートの役割―孤独感との関連について―」『Life Design REPORT』(第一生命経済研究所ライフデザイン研究本部)第168号、pp4-15.
上田敏子・窪田辰政・宗像恒次(2014)「大学生の不安になりやすい特性とネガティブ自己イメージ脚本、ソーシャルサポート認知との関連」『日本保健医療行動科学会雑誌』第28巻第2号、pp68-75.
浦﨑貴大・森川友子(2019)「過去のストレス体験におけるサポート認知と意味づけおよび外傷後成長との関連」『人間科学』(九州産業大学人間科学会)第1号、pp27-37.
渡辺弥生(1995)「大学生のソーシャルサポートと社会的スキルに関する研究」『静岡大学教育学部研究報告(人文・社会科学篇)』第45号、pp241-254.
山本友美子・堀匡・石垣琢磨・大塚泰正(2007)「大学生におけるソーシャルサポートの互恵性変化と抑うつとの関連―性別およびサポート機能別の検討―」『広島大学心理学研究』第7号、pp245-253.

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