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パニック障害の心理療法全般

🍅ここから数ページにわたって、心理療法を取り扱ってみようと思います。心理療法は掘り下げるとキリがないので、患者や当事者として基本的に押さえておきたいことに限定しながら整理してみます。


1.心理療法の定義と内容



🍅以下、佐治・水島(1974)、傳田(2004)、前田(2005)、前田(2007)、齊藤(2008)、齊尾(2013)、岩崎(2017)による知見を整理します。


(1)心理療法(psychotherapy)とは
🍅心理療法とは、心理学的な知識・技術を用いて、治療家と患者との交互作用を通して精神的な不調や精神疾患を治療する各種の方法をいいます。このとき、治療家は専門的な訓練を受けた専門職でなければなりません。
🍅ただし、いろんな心理療法の全てが精神的な不調や精神疾患の治療を行うわけではありません。健康な人の人間的な成長や人生のプロセスを支援することを目的とする心理療法もあります。
🍅類似する用語として、カウンセリングcounseling)があげられます。カウンセリングは、治療よりも人間的成長のほうに重心が偏っていると考えるとよいでしょう(あるいは、心理療法とは源流が異なる)。さらに、「心理カウンセリング」なる用語もありますが、通常、(一応管理人も含む)専門職はそのような用語は使いません。
🍅「心理」療法と「精神」療法との違いについては、心理療法は欧米の精神分析学や臨床心理学の領域を背景とした用語、精神療法は精神医学の領域を背景とした用語で、内容的には心理療法も精神療法も特に違いはないと考えてよいと思います。


(2)心理療法の分類
🍅心理療法は、その基礎となる思想や人間観の違い、対象の違い、具体的技法の違いなどによっていろんな種類のものがあります。また、種類だけでなく「流派」もあります。アメリカの研究者が調査したところでは、1980年代の段階で400種類以上(近年は500種類以上ともいわれる)の心理療法があるといわれています。何を基準に、どのような問題を抱えているときにどのような心理療法を選択するのかが、治療する側も患者もよくわからないという状態が続いています。
🍅心理療法の主なものとしては、以下のようなものがあげられます。

■精神分析療法(精神分析を通して治療を図ろうとする心理療法)
■クライエント中心療法(来談者中心療法)(クライエント自身が治すという過程を重視する心理療法)
■認知行動療法(行動理論と認知理論を活用して治療を図る心理療法)
■遊戯療法(子ども向け。遊びを媒介として治療を図る心理療法。ただし、心理療法の理論は精神分析学に基づいて行われる)
■集団心理療法(集団活動を媒介して治療を図る。これは心理療法を個人でやるか集団でやるかという分類)
■家族療法(対象を個人ではなく家族に置いて、家族をシステムとして捉えながら治療を図る心理療法)
■絵画療法(非言語的・芸術的表現を用いた心理療法の一つ。描画によって抑圧された感情の浄化や解放を狙う)
■箱庭療法(非言語的・芸術的表現を用いた心理療法の一つ。また、遊戯療法の一つともいえるし、絵画療法の一つともいえる)
■森田療法(森田正馬が創始した、神経症に焦点を当てた心理療法)
■その他(催眠療法、心理劇、内観法、ゲシュタルト療法、音楽療法、自律訓練法などなど)

🍅このブログでは、パニック障害に適応する(と思われる)精神分析療法、認知行動療法、森田療法を取り上げようと思います。

  👀精神分析療法については以下のページで別途取り上げています。
  👀認知行動療法については以下のページで別途取り上げています。
  👀森田療法については以下のページで別途取り上げています。


2.心理療法について私たち患者・当事者が知っておきたいこと



🍅以下、桜井(2001)、傳田(2004)、前田(2005)、前田(2007)、池田(2011)、川谷(2012)、多田(2015)による知見を整理します。


(1)心理療法の目的をめぐって
🍅さきに述べたように、心理療法には「治療」を目的とするものと「成長」を目的とするものがあります。この、心理療法が目指しているものを患者がはき違えたり、心理療法に過剰な期待を抱いてしまうと、いざ心理療法のプロセスを終えてみると何も残らなかったという肩透かしを喰らうことになるので十分な注意が必要です。
🍅基本的に、精神分析をルーツにする心理療法は、「治療」と銘打っていながらも実際は治療家が患者を理解するための方法といえます(それを患者に跳ね返して、患者がそれに気づくという段取り)。
🍅一方、認知行動療法のような、合理主義的な方法論をルーツにする心理療法は、「悩み」の解消ではなく、「症状」(誤った学習や認知を含む)を除去してやれば「悩み」も解消するだろうと考えます。
🍅たとえば、パニック障害患者に対する「治療」を想定してみると、心理療法の種類によって「治療」の考え方(≒治癒像)に大きな違いがあります。
🍅精神分析療法では、パニック障害の症状に「無意識の意味」が隠されていると考え、無意識を意識化してやればよいと考えます。ふつう、精神分析療法が始まる時期に患者は「精神分析療法によって症状が消える」ことを期待します。しかし、精神分析療法が進むにつれて患者の期待や希望に変化が現れることがいくつかの研究によって確かめられています。すなわち、「そのような症状を『気にし過ぎていた』」とか、「気が楽になった」とか、「周りの目などどうでもよくなった」というふうに患者の治癒像が変化していくのです。ここで、吐き気や動悸は別段おさまっていません。
🍅森田療法も同じです。パニック障害患者はパーフェクトな理想像を抱くから身体のささいな変化に敏感になるのだから、その考え方を改めれば「症状なんか気にならなくなる」という理屈です。ここでも、症状そのものは消えていません。
🍅このように、「治療」の意味が心理療法の種類によって大きく異なることは、患者や当事者はあらかじめ知っておいたほうが良いでしょう。


(2)心理療法は患者のニーズに合致しているか
🍅心理療法は、治療家と私たち患者や当事者との間で、求めるものについてかなりの行き違い、思い違い、ズレがあると考えられています。
🍅一般に、治療家は自分が身に付けている心理療法の理論・技術を「採用したがる」とともに、患者をその理論・技術に「適合させる」傾向があるといえるでしょう。つまり、治療家は自分のやりたいことを勝手にやっているのではないかという疑いが大いにあります。理想的には、治療家が複数の心理療法の理論・技術を習得した上で、患者の状態や傾向に応じて方法をオーダーメイドできればよいのですが、治療家のほとんどは単一の心理療法しか身に付ける機会がないことから(その理由はいずれどこかでお話しします)、現状では無理があります。
🍅次に、さきに述べたように心理療法はその種類によって「治癒像」が異なります。心理療法の論文を読んでいると、「心理療法を希望するクライエントの多くは『治療』を求めているのではなく、生き方や人生の意味を求めているのだ」という趣旨の文章をたびたび目にしますが、少なくとも管理人は違います。管理人は常日頃から、一刻も早く精神科医療や心理療法からオサラバしたいと思っています。管理人は中年で残された時間が少ないからそのように思うのですが、だとすれば、心理療法は時間がふんだんにある(ついでにお金がある)若い患者に適応しているということになります。なお、こうした「生き方や人生の意味を求めているのだ」というセリフは、精神分析療法の流派が、その治療効果がないと他の心理療法から批判されたときの方便として使われやすいです。


(3)心理療法には危険と失敗があること
🍅心理療法にはリスクがあります。心理療法を行うことによって患者の症状が重症化したり、自傷や自死を引き起こしたりすることがありますし、治療家が失敗することもあります。そして、仮にそのようなシビアな状況に陥ったとして、治療家がその後の患者の人生に責任を持って対応したという話を管理人は聞いたことがありません。
🍅佐治・水島編(1974)は、心理療法を行う治療家にはいくつかの「罠」があると述べています。それは以下のような点です。

  ①自分が身に付けた理論・技術だけを絶対視する
  ②患者個人の病理が、家族や社会などの病理と関連していることを見逃す
  ③同情を示すことが治療的であると考える
  ④自分が相手を治療するのだ、治療してやらねばならぬと思い込む
  ⑤個人の能力に限界があることに気づかない
  ⑥治療家が患者の「第二の病理的親(≒病気の原因)」になる
  ⑦薬物療法を無視したり、逆に過信したりする

🍅治療家は、治療家自身を原因とする失敗を全員が例外なく経験しています。そうしないと治療家が専門職として成長しないからですが、それがインシデントで終わることがほとんどであるとはいえ、稀にアクシデントレベルの失敗も生じていることは、私たち患者や当事者は知っておいたほうがよいでしょう。


文献

傳田健三(2004)「メンタルヘルスにおける最近の動向:精神療法」『北海道医報』第1035号、pp5-7.
池田政俊(2011)「力動的心理療法の目指すもの―その根底にある思想からの一考察―」『帝京大学心理学紀要』第15号、pp27-38.
岩崎久志(2017)「心理療法の共通要因に関する一考察―現象学の視点から―」『流通科学大学論集―人間・社会・自然編』第30巻第1号、pp25-40.
川谷大治(2012)「不安障害の精神分析療法」『精神神経学雑誌』第114巻第9号、pp1070-1076.
前田泰宏(2005)「心理療法実践における折衷的/統合的アプローチ」『奈良大学紀要』第33号、pp95-108.
前田泰宏(2007)「心理臨床における新しい潮流―心理療法の『統合の動向』についての一考察―」『奈良大学紀要』第35号、pp135-145.
齊尾武郎(2013)「統合的心理療法とドードー鳥の裁定:心理療法に優劣はない」『臨床評価』第41巻第2号、pp407-420.
齊藤万比古(2008)「エビデンスに基づく子どもの精神療法」『精神神経学雑誌』第110巻第10号、pp955-961.
佐治守夫・水島恵一編(1974)『臨床心理学の基礎知識』有斐閣ブックス.
桜井利行(2001)「対人恐怖症の心理療法による治癒像」『大阪大学教育学年報』第6号、pp313-324.
多田昌代(2015)「精神分析的心理療法はなぜ自閉症スペクトラム障害に対して有効でないか」『京都大学学生総合支援センター紀要』第44号、pp49-62.

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