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ポジティブ心理学とレジリエンス

🍅ここでは、近年注目されている臨床心理学や精神医学の動きの一つとして、「ポジティブ心理学」とそれに関連する概念の「レジリエンス」を取り上げてみます。


1.ポジティブ心理学(positive psychology)



(1)ポジティブ心理学とは
🍅ポジティブ心理学とは、人間の病理的な側面だけでなくポジティブな側面にも目を向けて研究と実践を行っていこうではないかという心理学者らの提唱に基づく動きのことをいいます。ただし、その内容は別段新しい何かを発見するのではなくて、もともと存在していたポジティブな心理に関する理論や概念、性質をより深く掘り下げようとするものです(川端・金沢:2019;須藤:2019)。
🍅ポジティブ心理学が求められるようになった背景として、以下の2点を挙げることができます(太田・岡本:2017;宇野:2019)。

  ①精神病理に着目しすぎると、患者本人が本来持っている適応能力が見逃されやすい
  ②これまでのアプローチでは太刀打ちできない問題がたくさん生じている

🍅ポジティブ心理学では、患者の「人生」や「生きるに値する正しい方向」、「人生の向上」などに注目します(須賀:2019;宇野:2019)。この点は少し抽象的でわかりにくいのですが、それまでの心理学では、患者のある一時点での精神病理をどのように見立てるか(≒診断するか)ということに焦点を置いていたのですが、そうではなくて、その患者の長期的な経過(≒人生)を追跡しながら、よりよい人生になるように支援していこうとする考え方と捉えるとよいでしょう。そのため、ポジティブ心理学で取り扱われるキーワードは人生のほかに、幸福、ウェルビーイングwell-being;健康や生活全体が良好な状態であること、またはそれを目指すこと)、楽観主義、レジリエンス(回復力。後述)、長所、健康、英知、上手な年の取り方など、短期的にどうこうできるものではなく長期的に見ていくべきものが多いのが特徴です(杉原:2008)。
🍅ポジティブ心理学はセリグマンM.E.P.Seligman)という心理学者が1990年代後半に提唱したものですが、杉原(2008)や宇野(2019)によると、ポジティブ心理学の内容に値する研究は20世紀初頭から行われていたとされています。
🍅ポジティブ心理学は医学や保健(≒病気の予防)、心理臨床、教育などの各分野に応用・活用されているほか、ポジティブ心理学とは源流は異なるものの、企業組織の生産性向上や従業員の労務管理などにもポジティブ思考・志向が具体的なものとして活用されています。おそらく最も浸透している分野が教育現場(特に公教育の現場)で、それまでは叱咤と叱責が中心であった指導法が、まず当該児童の良いところを褒め、次に改善すべき点を指摘するという方法に変わりました。なお、現在では悪い部分を叱って矯正する「だけ」の指導方法は人権問題となり、そんな教え方をする教員は懲戒処分の対象とされます。
🍅ポジティブ心理学で気を付けたいのは、これが従来の臨床心理学を否定するのではなく補完・拡大しようとするものであることです。つまり、これまでに培われてきた病理追及型の心理学を残しつつ、臨床心理学が患者に役立てる範囲を広げようとするものです。このことは、ポジティブ心理学がそれ単独では精神疾患には対応できないことを意味しています。


(2)精神医学への活用 ― ポジティブ精神医学
🍅以上のようなポジティブ心理学の影響を受けて、精神医学の側からもポジティブ精神医学positive psychiatry)という、ポジティブ視点を重視する精神医学の理論と実践が生まれました。ポジティブ精神医学の論文を読んでみると、その目指すところはポジティブ心理学と同じでwell-being、上手な年の取り方、楽観性、英知などのよりよい人生の意味や意義に置かれていますが、では具体的にどうするんだといった部分ではポジティブ心理社会的要因PPSFspositive psychosocial factors)の向上という目的があり、PPSFsの中身はレジリエンス(後述)、潜在能力、自己効力感、長所、達成可能な熱望など、どちらかといえば短期的に取り組むことができるような事柄があげられています。これらはポジティブアウトカムとも呼ばれています。アウトカムとは「結果」という意味です。臨床医学では単に「目指す」という努力目標だけではダメで、結果を出さなければなりません。そのため、PPSFsの項目も短期的で評価可能な目標が定められているのだと思います。
🍅ポジティブ精神医学も、これまでの診断・治療という流れに対する反省から生まれています。須賀(2019)によると、①近年、精神疾患の原因について個人要因(遺伝、脳機能など)よりも環境要因(生育環境、対人関係など)の比重が大きくなってくると、患者個人の内面的な問題の治療を行うだけでなく、いかに柔軟に環境適応していくかや、病気を持っていてもいかに主観的な幸福感を高めていくかという部分が重要になってきていること、②精神医学の使命が精神疾患の症状軽減だけでなく患者の人間的な成長や患者の人生満足度の向上など幅広く対応すべきであることに多くの精神科医が気づき始めたこと、③完治するよりも慢性化していくことのほうが多い精神疾患について「治る」という概念が多様化し、慢性化していても、その患者の環境をうまく調整したり患者の障害受容の度合いを高めていくことによって「治る」と同じ状態を実現できるかもしれないこと、などの考え方の変化がポジティブ精神医学が生まれる動機になっているようです。
🍅ポジティブ精神医学もまた、従来の精神医学を壊すことを目的としておらず、共存共栄または従来モデルの補完・拡大を狙っています。つまり、今後の精神医学は精神病理の追求・追究だけでなく、健康増進やwell-being向上まで幅広く取り組んでいきましょうということです。


(3)ポジティブ心理学の問題点
🍅「ポジティブ」という言葉は、精神疾患患者だけでなく一般大衆にも受け入れられやすい言葉であるがゆえに一人歩きしやすく、だからこそさまざまな分野にも応用されやすいのですが、ポジティブ心理学(ポジティブ精神医学を含む)にも注意しなければならない点がいくつかあります。
🍅まず、精神疾患患者の中にはポジティブなものをネガティブに受け取る人がいます。PTSD患者や幼少期に長期にわたって虐待を受け続けてきた患者の中には、ポジティブな声掛けをするとそれを否定的に解釈し、逆にストレスとなってしまう場合があります(川端・金沢:2019)。また、これまでポジティブな言葉を掛けられたにもかかわらず、それがことごとく裏切られたという結果を持つ患者も同様にポジティブな言葉を嫌悪するでしょう。なので、周りの人は良かれと思って「あなたの強さはこの部分です」と助言しても逆効果となる場合があるので注意したいものです。
🍅次に、精神疾患患者に対してポジティブな助言を行うときには、話し手と受け手(患者)との間に信頼関係が成立していなければなりません。川端・金沢(2019)は「個別性」と「二人称の関係性」が必要と述べています。「個別性」とは、話し手が患者の人生や病気とともに生きてきた事情をろくに知らないまま安易にポジティブな助言をすると患者の反発を招きやすいということです。この傾向は、精神疾患を持たない話し手がよくやりがちな失敗例で、話し手の個人的な経験から「私も辛かったけど良い面を活かした、だからあなたも頑張って」などとアドバイスをしてしまうと、患者は逆に「私にはできない」と追い込まれることになります。要は話し手と受け手のチャンネルが合っていないということであって、話し手の信憑性が問題となります。また「二人称の関係性」とは、患者の人生をよく知っている人がポジティブな助言をすれば患者の心に響きますし、「あなたに言われたから私も自分のポジティブな面を発見することができた」となります。つまり、患者の生活史や人生を断片的にしか知らない第三者が距離を置いた三人称的な立場から助言しても響きませんということです。ここでも話し手の信憑性が問題となります。
🍅次に、ポジティブ心理学がより良い人生やwell-beingを目指すものであることは先に示した通りですが、これには文化差があります。その患者の人生や幸福について、欧米では宗教観(特にキリスト教の考え方)が深く関わっていて、日本人が考える人生や幸福と随分意味が異なります。私たち日本人が「人生」「幸福」と聞いてピンとこないのはそこに理由があるんです。なので、「ポジティブ」の解釈にも文化差があると考えられます。例えば、「自尊心self-esteem)」という概念があります。これは自分自身を肯定的に評価し、誇りあるものと自覚することですが、杉原(2008)はアメリカ文化では自尊心は高ければ高いほどいいのかも知れないが、日本では「傲慢さ」や「慎みのなさ」と捉えられるかもしれないと述べています。また杉原は、欧米の人はポジティブな出来事を自分の能力や努力によるもの、ネガティブな出来事を運や外的環境によるものと捉えるが、日本人は逆、つまりネガティブな出来事を自分のせいにし、ポジティブな出来事を運や外的環境のせいにする傾向があるとする先行研究をあげています。


2.レジリエンス(resilience)



🍅さて、以前ソーシャルサポートのページで、同じ精神的ストレスがかかっても、その後精神疾患を発症する人としない人がいるのはなぜかという疑問を取り上げました。

  👀なお、ソーシャルサポートについては以下のページをご覧下さい。

🍅パニック障害であれば、多くの人がパニック発作に近いような症状を生涯に経験しているとされています。でも、その体験が後日予期不安となってパニック障害に罹ってしまう人と、後日何事もなかったかのように生活できる人がいるのはなぜでしょうか? 管理人の場合は嘔吐恐怖です。嘔吐は人類のほぼ全員が経験しています。なのに、嘔吐を恐怖と感じて以後それが恐ろしくなってしまう人と、お酒を飲み過ぎて嘔吐を繰り返してもなんとも思わない人(こちらのほうが圧倒的大多数です)がいるのはなぜでしょうか? さらに、阪神・淡路大震災や東北・東日本大震災ではそこに住む全員が強力なストレスを受けました。なのに、それ以後PTSDを発症する人としない人がいるのはなぜでしょうか?
🍅この違いについて、心理学者は「レジリエンス」という回復(力)の有無にあるらしいと考えています。レジリエンスは、ポジティブ心理学でいうポジティブな能力の一つとされています。


(1)レジリエンスとは
🍅レジリエンスresilience)とは、逆境からの回復(力)や逆境に対する弾力性といった意味で使われる英単語です。イメージとしては、よくしなる草木の枝をある程度曲げてみます。この曲げるという行為は草木の枝にとってはストレスとなります。それで、曲げている手を放すと草木の枝は元に戻ります。この、元に戻るという反発力、弾力性のある状態、回復しようとする力がレジリエンスというわけです。人が何らかの強いストレスにさらされたときに、その人がレジリエンスを持っているかどうかがその後の精神的健康を左右すると考えられています。
🍅ただし、このレジリエンスの定義をめぐってはさまざまな意見があって、これを書いている2021年現在も揺れ動いています。たとえば、レジリエンスとはプロセスか、それとも結果か、レジリエンスは個人の内面にあるものなのか、それとも個人が置かれた環境のことか、レジリエンスは困難な状況にある人に適用されるものか、それともあらゆる日常的な生活場面に適用されるものか、レジリエンスは子どもだけに適用されるのか、それとも大人にも適用されるのか、などなど。詳しいことは研究者に任せといて、とりあえず、管理人を含む患者や当事者は「両方含む」としておけば間違いないです。
🍅レジリエンスの研究は1970年代に、最初に述べたような、同じストレスを受けても精神疾患を発症する人とそうでない人がいるのはなぜかという疑問から始まっています。当初、その対象は統合失調症患者と子どものPTSD患者でした。統合失調症患者に対する研究では、患者のほとんどは日常生活に非適応的だとされていたものが、比較的適応しながら生活している患者も案外多いことが分かりました。PTSDの子どもの研究も同様です。そして、この差は何かというわけです(石原・中丸:2007;齊藤・岡安:2009;石井:2011;西ら:2012;太田・岡本:2012)。
🍅ちなみに、管理人は学生時代にレジリエンスという概念を全く聞いたことがありませんでした。レジリエンスという用語が論文にチラホラ出始め、学者の間でも話題になり始めたのは2005年頃からです。今は百花繚乱、レジリエンスだらけです。
🍅これまでにもレジリエンスに似た概念がなかったわけではありません。おそらく、最もレジリエンスに近いものは生体恒常性ホメオスタシス)です。ただし、ホメオスタシスは通常は身体機能に関するものであるほか、「逆境からの回復」というレジリエンスの性質とは意味が少し異なるといえるでしょう。また、ストレス耐性フラストレーション耐性という用語もあります。これは一言でいえば「打たれ強さ」のことですが、レジリエンスのような、どのようにして立ち直ったのかというプロセスを示す概念ではありません。ストレスコーピングストレス対処)という用語については、ストレスには対処するものの、レジリエンスのような「元に戻る」ことや「しなるような弾力性」という意味を持っていません。


(2)レジリエンスの中身
🍅レジリエンスが草木の枝のようにしなりを持った回復力、弾力性、反発力によって逆境や強いストレス状況からもとの状態に戻る力であるとしても、これだけでは「そのような能力なのか」で終わってしまいます。レジリエンスとは具体的にはどういうものを指すのでしょうか。
🍅平野(2010)はレジリエンスについて、もともとその人が持っている能力(資質的レジリエンス)と、後天的に身に付ける獲得的レジリエンスに分類しています。資質的レジリエンスは、楽観性、コントロール力、社交性、行動力など、その人が生まれつき持っているものをいい、これは性格(パーソナリティ)とほぼ同じと考えてよさそうです。また、獲得的レジリエンスは、問題解決志向、自己理解、他者心理の理解など、自分自身だけでなく他者との関係の中で培われていくものです。
🍅小塩ら(2002)は、レジリエンスの内容として新奇性追求(新しいことに関心を持ちチャレンジする)、感情調整(自分の気持ちをコントロールする)、肯定的な未来志向(自分の未来に対してポジティブである)の3つをあげています。
🍅齊藤・岡安(2009)は、レジリエンスには一次的レジリエンス二次的レジリエンスがあり、一次的レジリエンスは外的な逆境やストレスが加わったときに機能するもので遺伝的要素やストレス耐性の個人差、個人的な感じ方などをいい、二次的レジリエンスは一次的レジリエンスに対して加わるもので、その人の社会的スキルや対処法、ソーシャルサポートの存在などが含まれるとしています。
🍅小花和(2002)は、レジリエンスには「I AM Factor」(遺伝や性格など個人内の要因)、「I HAVE Factor」(周囲から提供される環境要因)、「I CAN Factor」(社会的スキルなど、その人が自分自身で獲得できる要因)の3つに分類しています。
🍅これらをまとめると、レジリエンスには①その人がもともと持っている素質②その人の周囲にある環境という要素③その人が人生を重ねていく中で採り入れていく能力の要素、の3つに分けることができます。


(3)レジリエンスは後天的に身につくのか?
🍅レジリエンスの内容は、遺伝や先天性の性格などの変えようがない要素と、外的環境やその人の成長に伴う各種スキルの獲得、ソーシャルサポートなど、考えようによっては変えることができるかもしれない要素に分けることができます。言い換えると、変えようがない先天的要素と変えることができるかもしれない後天的要素の2つがあるということです。管理人を含め、患者や当事者としてレジリエンスについて知りたいことは、ズバリそうしたレジリエンスが後天的に身につくのかどうかという点です。
🍅平野(2010;2012)は、レジリエンス研究者の多くが「後天的に身に付けることができる」と言っているが果たしてそうだろうかと述べ、身に付けやすいものと付けにくいものがあると指摘しています。さきに後天的なレジリエンスの要素として問題解決志向、自己理解、他者心理の理解、新奇性追求、感情調整、肯定的な未来志向などをあげましたが、これらのほとんどは先天的な性格と深く結びついている上に、特に繊細な子どもの場合、親の精神疾患や離婚、貧困、虐待などの危機に対して子どもが変えることのできる環境は極めて限られていることなどから、平野は生得的なリスクが高ければ生得的なレジリエンスも低くなると結論しています。
🍅この平野の見解は多くのレジリエンス研究者から「環境や、環境との相互作用を無視している」として批判にさらされていますが、管理人の個人的意見を言わせてもらえば、平野の指摘はおおむね妥当であると考えざるをえません。その理由は2つあります。一つ目は、環境ないし環境との相互作用によって獲得できるレジリエンスがあるとするならば、PTSDやパニック障害に苦しむ患者はもっと少ないはずであり、また個人もそうした予防対策を講じることができるからです。二つ目は、後天的に獲得できるレジリエンスによって回復なり復元なり、まさに草木の枝が元通りになったという実証研究がほとんど存在しないからです。


(4)レジリエンス研究の問題点
🍅これまでレジリエンスについてあれこれ考えてきましたが、レジリエンス(とその研究)には問題点がたくさんあります。管理人の個人的見解も含め、まとめておきます。

①レジリエンスそのものではなく、レジリエンスに「関連する要因」を研究している可能性がある
・このページを書くにあたって、レジリエンスに関係する主要な論文を読解した中で、著者はレジリエンスであると述べているものの、それはレジリエンス自体ではなく「レジリエンスに関連する概念」ではないかと考えられるものがありました。
・「楽観性」、「社交性」、「行動力」、「問題解決志向」、「新奇性追求」、「肯定的な未来志向」はパーソナリティ(性格)の一要素ですし、社会的スキルやソーシャルサポートはレジリエンスの外にある環境要因であると考えられます。
・最初に戻ってしまいますが、「草木の枝のしなりのような回復力や復元力、弾力性」がレジリエンスという単語の本来のニュアンスです。そのビヨンビヨンとしたイメージとはズレているような気がします。

②レジリエンスの効果を「期待する」ことが実態を歪めている可能性がある
・レジリエンス研究者の多くは、その効果を期待するあまり、実証できていないことをあたかも真実であるかの如く主張しています。レジリエンスによって困難な状況が変えられるのであれば、PTSDなどの精神障害はある程度解決されているはずです。
・ここでもう一度元に戻りましょう。大災害や身近に生じた逆境、困難な場面で精神疾患を発症する人とそうでない人がいるのはなぜか? これがレジリエンス研究のスタートだったはずです。特に本人の先天的なレジリエンス以外の後天的なレジリエンスについて、実証できていないのにそれが効果的であると言ってしまうのは問題アリです。

③向社会的な資質が高ければよいのか
・佐藤・金井(2017)は、先天的なレジリエンスとしてのパーソナリティ(性格)について、その多く(新奇性追求、感情調整、肯定的な未来志向、楽観性、社交性など)が対人関係や社会にとって良いとされる性格(「(こう)社会的性格」といいます)であり、レジリエンスは果たしてそのようなものなのかと問題提起をしています。
・この問題提起は、さきに述べた②の研究者の期待や希望という側面だけのものではありません。たとえば、神経質であることは物事を正確に読み取るという意味ではポジティブ要素の一つかもしれませんし、逆に鈍感であることもまた、社会や対人関係にとってはプラスにはなりませんが本人は「鈍感力」によって危機や逆境をあまり感じることなくそれを乗り越えるかもしれません。つまり、一般的に社会で物事をうまくこなすような性格の人だけがレジリエンスの素質を備えているとは一概には言えないということです。


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🍅で、結局どうなのかというと、ポジティブ心理学といい、ポジティブ精神医学といい、レジリエンスといい、これらを用いた効果的な支援方法にまではほとんど到達していません。
🍅特にレジリエンスは、患者や当事者からすれば切実なテーマなので是非とも今後も研究を続けてほしいと思いますが、研究の世界はファッションみたいに流行があって、いま現在がそのピークです。流行が過ぎて、いずれ別の研究者が新しい英単語を欧米から輸入してくると、レジリエンスが忘れられていくのではないかと危惧します。
🍅また、今回特に感じたことは、研究者の多くがレジリエンスを切実なものとして捉えていないことです。以前ひきこもりのページで、ひきこもりの当事者が経過するプロセスに関する研究をいくつか紹介しました。そこでは、ひきこもりの本人と家族の心境が時間の経過に伴ってどのように変化していくか、そしてどこがポイントであるかが実によく理解できたものです。この成果は、研究者がひきこもりという問題を「差し迫った危機」として捉えていたからだろうと管理人は思ってます。

  👀なお、ひきこもりについては以下のページで詳しく取り上げています。

🍅ところが、レジリエンスの研究のほとんどは大学生など健康な学生を対象としたものです。これは、研究者が臨床現場にフィールドを持っていないという理由のほかに、サンプルを採りやすい所から採ったという理由もあるはずです(講義中の学生など、調査しやすいサンプルのことをコンビニエント・サンプルといいます)。その意味では、レジリエントに関しては心理学者よりも医学者や看護学者、社会福祉学者がより主体的に研究を行ったほうがよいと思います。
🍅要するに、リアルさが欠如しているんです。あるいは「ぬるい」と言ってもいいかもしれません。管理人のような中年はともかくとしても、今まさにPTSDを発症しようとしている子どもが存在するという危機感を共有してほしいと切に願います。村木(2015)は、レジリエンス研究にはオンライン研究とオフライン研究があると述べています。オンライン研究とは、まさに今逆境の真っ只中にいる人や困難に直面している人の立ち直り過程を調査することをいい、オフライン研究はそうでない平常時の人を調査することをいいます。言うまでもなく、大方の研究はオフライン研究です。村木は、それがレジリエンス研究なのかと言っているわけです。
🍅何度も繰り返すようですが、誰もが強いストレスにさらされているにもかかわらず、PTSDを発症する人としない人の両方が存在するのはなぜか? ここに立ち戻ってもらい、今後の研究に大いに期待したいところです。


文献

羽鳥健司・石村郁夫(2016)「人生における意味づけに関するポジティブ心理学的研究の概観」『埼玉学園大学心理臨床研究』第2巻、pp12-16.
平野真理(2010)「レジリエンスの資質的要因・獲得的要因の分類の試み―二次元レジリエンス要因尺度(BRS)の作成」『パーソナリティ研究』第19巻第2号、pp94-106.
平野真理(2012)「生得性・後天性からみたレジリエンスの展望」『東京大学大学院教育学研究科紀要』第52巻、pp411-417.
石原由紀子・中丸澄子(2007)「レジリエンスについて―その概念、研究の歴史と展望―」『広島文教女子大学紀要』第42号、pp53-81.
石井京子(2011)「レジリエンス研究の展望」『日本保健医療行動科学会年報』第26巻、pp179-186.
川端康雄・金沢徹文(2019)「『ポジティブな病いの語り』が与える生きづらさ」『質的心理学フォーラム』第11号、pp32-39.
川原正人(2016)「ストレス関連成長が生じるプロセス―PAC分析を用いた事例研究―」『東京未来大学研究紀要』第9巻、pp31-41.
村木良孝(2015)「レジリエンスの統合的理解に向けて―概念的定義と保護因子に着目して―」『東京大学大学院教育学研究科紀要』第55巻、pp281-289.
西大輔・渡邊衡一郎・松岡豊(2012)「レジリエンス概念と,総合病院におけるその活用に向けて」『総合病院精神医学』第24巻第1号、pp2-9.
太田美里・岡本祐子(2017)「レジリエンスに関する研究の動向と展望―環境要因と意味づけへの着目―」『広島大学心理学研究』第17号、pp15-24.
齊藤和貴・岡安孝弘(2009)「最近のレジリエンス研究の動向と課題」『明治大学心理社会学研究』第4号、pp72-84.
佐藤暁子・金井篤子(2017)「レジリエンス研究の動向・課題・展望―変化するレジリエンス概念の活用に向けて―」『名古屋大学大学院教育発達科学研究科紀要.心理発達科学』第64巻、pp111-117.
須賀英道(2019)「ポジティブサイコロジー理論によるポジティブ精神医学への発展」『精神神経学雑誌』第121巻第9号、pp700-707.
杉原一昭(2008)「ポジティブ心理学―その批判的検討」『東京成徳大学臨床心理学研究』第8号、pp137-142.
宇野カオリ(2019)「ポジティブ心理学の挑戦」『日本労働研究雑誌』第705号、pp51-58.
宇佐美尋子(2013)「心理的ストレスプロセスにおけるレジリエンスの機能について―大学生を対象とした検討―」『聖徳大学研究紀要』第24号、pp11-16.

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