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パニック障害の薬物療法(抗不安薬)

🍅ここではパニック障害などに用いられるお薬についていろいろと整理してみます。
🍅しかしながら、「どのお薬が効く、効かない」といった主観的な感想は言わないようにします。精神科で用いられるお薬の多くは、お薬であると同時に神経毒としての性質を持っていて、しかも種類によっては命に関わるものも含まれますので、素人の管理人が迂闊なことを書き捨てるのは倫理上よろしくないと考えます。なので、分類と発達史、作用のしくみ、弊害を述べるにとどめておこうと思います。商品名など詳しいことを知りたい方は「お薬100番」などを参照して下さい。


0.向精神薬の種類



🍅以下、小曽根・伊藤(1996)、上島(2007)、福田(2013)による知見を整理します。
🍅精神疾患の治療に用いられるお薬全般のことを向精神薬といいます。主に中枢神経系に作用し、かつ、常用量で意識状態の変化を起こさずに(睡眠薬を除く)症状を緩和したり、行動の変化をもたらしたりすることを狙っています。
🍅向精神薬の分類にはいくつかの見解はあるものの、概ね以下の①~⑥に分けることができます。ただし、実際には特定の疾患に対して固定的に用いられるのではなくて、併用、応用が行われるのが普通です。

①抗精神病薬
・主に統合失調症や妄想性障害、せん妄などの疾患に対して用いられるものです。
・作用としては、精神運動性興奮の抑制・鎮静作用、催眠作用、抗幻覚・抗妄想作用、精神賦活的な作用(意欲亢進、情動亢進など)などがあげられます。

②抗躁薬/気分安定薬
・主に、双極性障害などの疾患に対して用いられるものです。
・作用としては、躁状態の鎮静作用、躁うつ予防作用などがあげられます。

③抗うつ薬
・主に、気分障害、抑うつ状態などの疾患に対して用いられるものです。
・作用としては、抑うつ気分の解消、思考力・集中力低下の改善、不安・焦燥の緩和、うつの再燃・再発の予防などがあげられます。

④抗不安薬
・主に、不安障害や心身症などの疾患に対して用いられるものです。また、内科、外科、整形外科などの他科でも広く用いられています。
・作用としては、抗不安作用、抗けいれん作用、筋弛緩作用、催眠作用などがあげられます。また、作用時間(血中半減期)により、短期作用型、中間型、長期作用型などの分類があります。

⑤睡眠薬
・主に、睡眠の導入とその維持のために用いられるものです。
・抗不安薬のうち、催眠作用が比較的強いものは睡眠薬として用いられています。これも作用時間(血中半減期)により、超短時間作用型から長時間作用型までいくつかの分類があります。

⑥その他
・抗てんかん薬、脳循環・代謝改善薬、抗認知症薬、禁煙補助薬などがあげられます。

🍅以上を踏まえた上で抗不安薬の内容に入ります。以下、松宮(1997)、井上(2005)、上島(2007)、松枝(2010)、井上(2012)、辻・田島(2012)、貝谷(2013)、井上(2018)による知見を整理します。
🍅抗不安薬は、歴史順にはベンゾジアゼピン系抗不安薬以前、ベンゾジアゼピン系抗不安薬、ベンゾジアゼピン系抗不安薬以後の3段階に分けることができます。以下、歴史順に、主な抗不安薬をあげてみたいと思います。


1.ベンゾジアゼピン系抗不安薬以前



🍅ベンゾジアゼピン系抗不安薬が現れる前の抗不安薬としては、バルビツール酸系向精神薬やメプロバメートなどがあげられます。いずれも初期のお薬であるがゆえに副作用が強く、現在用いられることはまずありません。


(1)バルビツール酸系(Barbiturate)向精神薬
🍅ベンゾジアゼピン系抗不安薬が開発される以前には、バルビツール酸系という向精神薬が抗不安薬として用いられていました。バルビツール酸系の薬物は鎮静剤の一種で、1900年代から1920年代にかけて開発が進められました。
🍅作用のしくみとしては、モノアミン神経伝達物質の一つであるγ-アミノ酪酸(GABA)の受容体に作用し、GABAの受容時間を延ばすことでGABAの活動を促進させます。
🍅古典的な中枢神経作用薬のため安全域が狭く、現在の抗不安薬に比べると毒性がかなり強いといえます。

  👀なお、γ-アミノ酪酸(GABA)については以下のページで取り上げています。

バルビツール酸系(Barbiturate)向精神薬


(2)メプロバメート(meprobamate)
🍅メプロバメートは、1950年代初頭に非バルビツール酸系抗不安薬として開発されました。このお薬は偶然見つけられました(精神科のお薬は偶然見つかるというパターンがやや多いです)。抗菌剤の開発途中にその薬物に筋弛緩作用があることが発見され、抗不安薬(当時は精神安定剤)として応用されることになったという経緯を持っています。
🍅作用のしくみとしては、GABA-A受容体の機能に介入して神経伝達物質の伝達を遮断し、鎮静効果を発揮するとされていますが、その効果が広すぎるがゆえに逆に作用のしくみがよくわかっていません。
🍅メプロバメートは、バルビツール酸系抗不安薬に比べて効果が弱いので大量に服用しなければならず、大量に服用すると薬剤耐性や依存性が強くなってしまうという悪循環が生じやすく、にもかかわらず欧米、日本で一時期処方箋なしで(❗❗)市販されていた時期があり、現在は使用されていません。


2.ベンゾジアゼピン(BZまたはBZD;benzodiazepine)系抗不安薬



🍅ベンゾジアゼピン系抗不安薬は、抗不安薬としては最もポピュラーで、パニック障害をはじめとする不安障害に対して処方されるとともに、副作用として眠気が生じることが多いために睡眠導入剤としても広く用いられています。
🍅「ベンゾジアゼピン」とは化合物の名前で、一番最初に開発されたBZ系抗不安薬はクロルジアゼポキシドchlordiazepoxide)というもので、1950年代後半のことです。その後、ジアゼパムdiazepam)、オキサゼパムoxazepam)など、十数種類のBZ系抗不安薬が開発されています。
🍅作用のしくみはバルビツール酸系向精神薬とほぼ同じで、γアミノ酪酸(GABA)のA受容体に作用し、GABAの機能(抑制系である)を亢進させることによって扁桃体の活動を抑制させようとすることを狙っています。バルビツール酸系向精神薬は、GABA受容体を通過するGABAの量が際限なく増えて致死的な副作用を招くという特徴がありましたが、BZ系抗不安薬はその通過量をうまく調節して安全性を高めています。
🍅BZ系抗不安薬の意義としては、安全性にかなり問題のあった以前の抗不安薬に比べて大幅に安全になったことや、BZ系抗不安薬がなお抱える退薬症状や依存性の問題を減らすべく、のちにさらなる安全な抗不安薬の開発が進んだことなどがあげられます。
🍅BZ系抗不安薬も、薬剤耐性や依存性がなお強いにもかかわらず処方箋なしで市販されていた時期があり、メプロバメートと合わせて1970年代後半に社会問題化したことから、のちに法的に規制されることになりました。ただし近年、抗不安薬としての地位を確立していたSSRIの効果が疑わしいことから、BZ系抗不安薬を再評価しようとする動きもあります。

ベンゾジアゼピン系(BZまたはBZD;benzodiazepine)系抗不安薬


3.ベンゾジアゼピン系抗不安薬以後



🍅1980年代まで開発が続けられてきたBZ系抗不安薬は、1990年代後半になって抗うつ薬であったSSRIに主役の座を奪われました。その後の抗不安薬の開発の動向は、以下の2つの流れがあるといわれています。ここでは②を取り上げてみます。

  ①従来のBZ系抗不安薬と同じしくみ、効き目でありながらも副作用が極めて弱い抗不安薬
  ②セロトニン(5-HT)受容体に選択的に作用する抗不安薬


(1)セロトニン(5-HT1A)受容体アゴニスト
🍅「アゴニスト」とは、作動薬促進薬)という意味です(逆に、阻害薬のことを「アンタゴニスト」といいます)。
🍅5-HT受容体アゴニストの代表的なものは、1990年代中盤に開発されたタンドスピロンtandospirone)です。パニック障害を含む不安障害には、モノアミン神経伝達物質のうちセロトニン(5-HT)の関与がもっとも疑われていて、もっぱらそこに標的を定めています。
🍅作用のしくみは、セロトニンを放出する側のセロトニン自己受容体に作用します。すなわち、いくつかあるセロトニン自己受容体のうち、5-HT1Aという自己受容体にのみ選択的に作用して、セロトニンを放出し過ぎないように命令します。そして、セロトニンの暴走を抑えることによって不安を緩和します。

セロトニン(5-HT1A)受容体アゴニスト


文献

福田雄一(2013)「精神科薬物療法で用いる向精神薬のリスト(2)」『広島文教女子大学心理臨床研究』第4号、pp20-27.
蜂須貢・貝谷久宣(2010)「抗不安薬の効用と限界」『昭和大学薬学雑誌』第1巻第1号、pp17-28.
井上猛(2005)「不安障害の薬物治療の最前線」『日本薬理学雑誌』第125号、pp297-300.
井上猛(2012)「不安障害の薬物療法」『精神神経学雑誌』第114巻第9号、pp1085-1092.
井上猛(2018)「不安症治療におけるSSRIの作用機序の神経科学的理解」『不安症研究』第10巻第1号、pp20-28.
貝谷久宣(2013)「不安障害研究鳥瞰―最近の知見と展望―」『不安障害研究』第4巻第1号、pp20-36.
松枝亜希子(2010)「トランキライザーの流行―市販向精神薬の規制の論拠と経過―」『Core Ethics』(立命館大学先端総合学術研究科)第6巻、pp385-399.
松宮輝彦(1997)「抗不安薬の最近の開発動向と前臨床評価」『東京医科大学雑誌』第55巻第5号、pp571-581.
小曽根基裕・伊藤洋(1996)「安定剤と抗うつ剤の使い分け」『耳鼻咽喉科展望』第39巻第6号、pp671-677.
辻敬一郎・田島治(2012)「抗不安薬」『日本臨牀』第70巻第1号、pp42-46.
上島国利(2007)「向精神薬」『精神神経学雑誌』第109巻第6号、pp604-608.

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