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パニック障害の精神疾患内における位置づけ(ICD)

(2021/9/14)よりわかりやすくするとともに文字数を減らしました。


🍅このページでは、パニック障害が精神疾患、精神障害の中のどの位置に属しているかを見ましょう(管理人もこのページを作成する中でとても勉強になりました)。
🍅なお、以下に示す分類や基準を使って他者の症状を診断することは医師法第17条に抵触し、処罰の対象となります。素人(もちろん管理人を含む)が診断できるほど精神科医による診察、診断は単純なものではありません。特に、パニック障害は自分自身で判断したものとは異なる可能性がしばしばあります(例えばてんかんや心疾患、呼吸器疾患など)。医師はそうした鑑別診断を行う能力を持っていますので、くどいようですが素人による勝手な診断や憶測は厳につつしみましょう


1.ICD(国際疾病分類)とは



🍅ICDInternational Classification of Disease)は「国際疾病分類」と訳されています。「classification」とは「分類」、「disease」とは「病気」の意味です。また、正式名称はちょっと難しいですが「疾病及び関連保健問題の国際統計分類(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems)」といいます。
🍅ICDは、ごく平たく言えばあらゆる病気の分類を書いた本で、「国際」とあるように、世界各国で共通に用いられている病気の分類のことです。なお、ICDを取り仕切っているのは国連の下部機関であるWHO世界保健機関)です。
🍅ICDは、病気や死因の統計を取るために世界各国で広く使われています。日本でも、たとえば「〇〇がんの患者数」「〇〇病による死亡者数」などの統計は基本的にICDの分類にしたがって行われていますし、医師が使う電子カルテの疾病分類や健康保険の診療報酬計算用ソフトの疾病分類などにもICDが活用されています。


2.ICDの歴史



(1)もともとは国際死因分類だった
🍅ICDは、もともとは各国の死因を国際比較するために作られたもので、ICDは現在の「International Classification of Disease」ではなく、「International Classification of Cause of Death」=「国際死因分類」でした。Causeは「原因」、Deathは「死亡」の意味です。


(2)ICDは約10年ごとに改訂される
🍅ICDはこれまで、約10年ごとに改訂されてきました。1900(明治33)年にICD-1、1909(明治42)年にICD-2、1920(大正9)年にICD-3、1929(昭和4)年にICD-4、1938(昭和13)年にICD-5という具合です。なお、ICD-5までは精神疾患の分類自体がありませんでした。理由は、ICDが死因の分類とその集計を目的としていたからです。
🍅その後、第二次世界大戦を挟んで1948(昭和23)年にICD-6が発表されます。ここではじめて精神疾患の章が設けられました。このICD-6では精神疾患の分類があまりにも曖昧だったため、アメリカでは自分たち独自の精神疾患の診断基準(DSMという)をまとめ、以後精神疾患・精神障害に関する国際的な診断基準はICDとアメリカのDSMが並立することになり、この状態は現在も続いています。
  
  👀なお、DSMについては以下のページで取り上げています。

🍅その後、1955(昭和30)年にICD-7、1965(昭和40)年にICD-8、1975(昭和50)年にICD-9、そして1990(平成2)年にICD-10がそれぞれ発表され、さらに2019(平成31/令和元)年にはICD-11が発表されています。なお、ICD-11はWHOで承認されたものの、日本では翻訳やソフトウェア改修に時間がかかっており、2020(令和2)年現在まだ導入されていません。(以上、厚生労働省:2013;溝部・中込:2007;森ら:2018;塩入:2012)

  👀なお、ICD-10(2013年版)については厚生労働省HPで日本語版の全容を閲覧できます。

ICDのあゆみ


3.ICDの中身を見る



🍅では、ICD-10で精神疾患やパニック障害はどのように位置づけられているのでしょうか。

icd10
↑  ICD自体は疾病の分類であり診断はできないが、精神障害の診断マニュアル(上図)が別途存在する。


(1)第5章:精神および行動の障害
🍅まず、ICDでは病気全体を以下のように分類しています。ICDは分厚い本のようなもので章立てがあって、各種の病気の大きな分類ごとに章が分かれています。パニック障害は「第5章 精神および行動の障害」の中に含まれています。

  第1章 感染症および寄生虫症
  第2章 新生物
  第3章 血液および造血器の疾患ならびに免疫機構の障害
  第4章 内分泌、栄養および代謝疾患
  第5章 精神および行動の障害
  第6章 神経系の疾患
  第7章 眼および付属器の疾患
  第8章 耳および乳様突起の疾患
  第9章 循環器系の疾患
  第10章 呼吸器系の疾患
  第11章 消化器系の疾患
  第12章 皮膚および皮下組織の疾患
  第13章 筋骨格系および結合組織の疾患
  第14章 尿路性器系の疾患
  第15章 妊娠、分娩、産じょく
  第16章 周産期に発生した病態
  第17章 先天奇形、変形および染色体異常
  第18章 症状、徴候および異常臨床所見・異常検査所見で他に分類されないもの
  第19章 損傷、中毒およびその他の外因の影響
  第20章 傷病および死亡の外因
  第21章 健康状態に影響を及ぼす要因および保健サービスの利用
  第22章 特殊目的用コード


(2)F4 神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害
🍅次に、「第5章 精神および行動の障害」の中身を見ましょう。
🍅第5章は以下の11個に分けられています。そして、パニック障害は「F4 神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害」というカテゴリーに含まれています。
🍅なお、ICD-9までは「神経症neurosis)」という名称が使われていましたが、ICD-10では神経症という名称が消滅しました。しかし「神経症性neurotic)」という用語は残されました。これは、このF4カテゴリーの中でイマイチ確定的に診断しかねる状態を「神経症性」と呼ぶことにしたからで、いわば一種の逃げ道としてこの用語を使っているわけです。

  F0 症状性を含む器質性精神障害
  F1 精神作用物質使用による精神および行動の障害
  F2 統合失調症、統合失調型および妄想性障害
  F3 気分障害
  F4 神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害
  F5 生理的障害および身体的要因に関連した行動症候群
  F6 成人のパーソナリティおよび行動の障害
  F7 知的障害
  F8 心理的発達の障害
  F90~98 小児期および青年期に通常発症する行動および情緒の障害
  F99 特定不能の精神障害 


(3)F4カテゴリーの中身
🍅さらに、F4カテゴリーの中身を見ましょう。
🍅F4カテゴリーは以下の7個(F40、F41、F42、F43、F44、F45、F48)に分類され、7個のカテゴリーそれぞれの中でさらに細分化されています。ここまで来てやっとパニック障害や広場恐怖など、私たち患者や当事者になじみの疾患名や症状名が登場するんです。

  F40~48 神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害
    F40 恐怖症性障害
      F40.0 広場恐怖(症)
      F40.1 社会恐怖(症)
      F40.2 特定の(個別的)恐怖(症)
      F40.8 その他の恐怖症性不安障害
      F40.9 恐怖症性不安障害、詳細不明
      (※醜形恐怖と疾病恐怖はF45.2心気性障害に分類される)
    F41 その他の不安障害
      F41.0 恐慌性(パニック)障害(挿間性発作性不安)
      F41.1 全般性不安障害
      F41.2 混合性不安抑うつ障害
      F41.3 その他の混合性不安障害
      F41.8 その他の明示された不安障害
      F41.9 不安障害、詳細不明
    F42 強迫性障害
      F42.0 主として強迫思考または反復思考
      F42.1 主として強迫行為(強迫儀式)
      F42.2 混合性強迫思考および強迫行為
      F42.8 その他の強迫性障害
      F42.9 強迫性障害、詳細不明
    F43 重度ストレスへの反応および適応障害
      F43.0 急性ストレス反応
      F43.1 外傷後ストレス障害
      F43.2 適応障害
      F43.8 その他の重度ストレス反応
      F43.9 重度ストレス反応、詳細不明
    F44 解離性(転換性)障害
      F44.0 解離性健忘
      F44.1 解離性遁走
      F44.2 解離性昏迷
      F44.3 トランスおよび憑依障害
      F44.4 解離性運動障害
      F44.5 解離性けいれん
      F44.6 解離性無感覚および感覚脱失
      F44.7 混合性解離性(転換性)障害
      F44.8 その他の解離性(転換性)障害
      F44.9 解離性(転換性)障害、詳細不明
    F45 身体表現性障害
      F45.0 身体化障害
      F45.1 分類困難な身体表現性障害
      F45.2  心気障害
      F45.3 身体表現性自律神経機能不全
      F45.4 持続性身体表現性疼痛障害
      F45.8 その他の身体表現性障害
      F45.9 身体表現性障害、詳細不明
    F48 その他の神経症性障害
      F48.0 神経衰弱
      F48.1 離人・現実感喪失症候群
      F48.8 その他の明示された神経症性障害
      F48.9 神経症性障害、詳細不明


4.ICD-10の問題点



🍅こうした、ICD-10におけるF4カテゴリーの診断分類に対しては、塩入(2012)がいくつかの問題点を指摘しています。以下、主なものを挙げてみましょう。

  ①神経症性障害、ストレス関連障害、身体表現性障害がひとまとめに分類されている
  ②不安障害をF40(恐怖症性障害)とF41(他の不安障害)の2つに分類している
    →現在はこの分類の意味がなくなりつつある。
  ③F40(恐怖症性障害)について、広場恐怖とパニック障害はどちらが上位なのか?
    →「パニック障害を伴う広場恐怖」なのか「広場恐怖を伴うパニック障害」なのか。
  ④F40.8(他の恐怖症性不安障害)とF40.9(恐怖症性不安障害、特定不能)を分けた意味が不明
  ⑤F41.2(混合性不安抑うつ障害)の明確な基準がない
    →不安と抑うつは通常混在するのでこの診断名は不適切。
  ⑥F43(重度ストレス反応および適応障害)の分類がおかしい
    →ストレスを原因とする疾患と、脳の原因による疾患が同一グループとされている。
  ⑦F44(解離性(転換性)障害)の下位分類が多すぎる
    →臨床上の利便性が失われかねない。
  ⑧F48.0(神経衰弱)は廃止すべき
    →この用語は臨床現場では現在ほとんど使われていない。


5.ICD-11について



🍅新しいICD-11では、臨床場面でより役に立つ分類づくりを目指したほか、新たに伝統医学(漢方など)の章が設けられました。
🍅精神疾患関連では、ICD-10で「精神および行動の障害」とされていた章の名称が「精神、行動または神経発達の障害」に変更されたこと、性同一性障害が精神疾患から離れ、かつ「障害」ではなく「性別不合」という扱いになったこと、ゲーム障害が新たに含まれたことなどがトピックとしてあげられます。
🍅(2021/5/11)ICD-11では従来の「F4 神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害」について、全般性不安障害、パニック障害、広場恐怖、特定の恐怖症、社交恐怖、疾病不安障害(旧心気症)、分離不安障害、選択性緘黙が「不安または恐怖関連障害」というくくりでカテゴライズされることになるようです。以下は精神科領域の分類です(今後も変更の可能性あり)。

  第6章 精神、行動または神経発達の障害
    1 神経発達症群
    2 統合失調症または他の一次性精神症群
    3 気分症(障害)群
    4 不安または恐怖関連症群
      4.1 全般不安症
      4.2 パニック症
      4.3 広場恐怖症
      4.4 限局性恐怖症
      4.5 社交不安症
      4.6 分離不安症
      4.7 場面緘黙
      4.8 不安または恐怖関連症、他の特定される
      4.9 不安または恐怖関連症、特定不能
    5 強迫症または関連症群
    6 ストレス関連症群
    7 解離症群
    8 食行動症または摂食症群
    9 排泄症群
    10 身体的苦痛症群または身体的体験症群
    11 物質使用症(障害)群または嗜癖行動症(障害)群
    12 衝動制御症群
    13 秩序破壊的または非社会的行動症群
    14 パーソナリティ症(障害)群および関連特性
    15 パラフィリア症群
    16 作為症群
    17 神経認知障害群
    18 性の健康に関連する状態


文献

厚生労働省政策統括官(統計・情報政策担当)付参事官(企画調整担当)付付国際分類情報管理室(2013)「疾病、傷害及び死因の統計分類の正しい理解と普及に向けて」厚生労働省、頁番号なし。
公益社団法人日本精神神経学会(2018)『ICD-11新病名案』公益社団法人日本精神神経学会.
秋山光浩・松浦恵子・今津嘉宏・及川恵美子・首藤健治・渡辺賢治(2011)「疾病及び関連保健問題の国際統計分類について」『日本東洋医学雑誌』第62巻第1号、pp17-28.
平島奈津子(2009)「いわゆる『神経症』の診断と診断のための面接」『精神神経学雑誌』第111巻第7号、pp868-874.
飯森眞喜雄・松本ちひろ・丸田敏雅(2013)「ICD-11の最近の動向」『精神神経学雑誌』第115巻第1号、pp49-52.
松本ちひろ(2018)「精神神経科領域におけるICD改訂の意義」『保健医療科学』第67巻第5号、pp455-458.
溝部宏二・中込和幸(2007)「神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害(摂食障害を含む)の疾患の概念と病態の理解」『精神神経学雑誌』第109巻第12号、pp1157-1164.
森桂・及川恵美子・阿部幸喜・中山佳保里(2018)「WHO国際統計分類の歴史とICD-11 の国内適用に向けて」『保健医療科学』第67巻第5号、pp434-442.
大坪天平(2012)「全般性不安障害の現在とこれから」『精神神経学雑誌』第114巻第9号、pp1049-1055.
佐野友美・赤羽学・八巻心太郎・菅野健太郎・今村知明(2009)「国際疾病分類ICD-11改訂の動向―2015年の完成に向けて―」『医療情報学』第28巻第6号、pp293-300.
塩入俊樹(2008)「ICD-10の問題点とICD-11に向けての課題:F4神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害」『精神神経学雑誌』第110巻第9号、pp797-804.
塩入俊樹(2012)「不安障害の現在とこれから―DSM-5改訂に向けての展望と課題:パニック障害―」『精神神経学雑誌』第114巻第9号、pp1037-1048.
谷伸悦・及川恵美子(2013)「ICD改訂の動向について」『厚生の指標』第60巻第1号、pp38-42.
上田フサ(1967)「国際疾病分類(ICD)の概要」『薬学図書館』第12巻第2号、pp48-50.

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