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パニック障害と発達障害との関連

🍅パニック障害だけでなく、成人期の精神疾患について、これまでのページであげてきたいろんな要因のほかに発達障害との関連を指摘する声は以前から存在していました。そこで、このページではパニック障害を含む精神疾患と発達障害との関連についての研究を取り上げてみます。
🍅ただし、発達障害そのものにはあまり深入りしません。


1.発達障害とその要因



(1)発達障害の概要
🍅以下、宮岡・小川(2019)、岡田(2019)による知見を一部参考にしました。
🍅発達障害とは、症状が低年齢に発現する脳機能の障害であって、具体的にはICDやDSMなどの診断基準のバージョンによって異なるものの、自閉症スペクトラム障害ASD)、学習障害LD)、注意欠陥・多動性障害ADHD)などが該当します。
🍅一方、発達障害の定義として「症状が低年齢に発現すること」が要件の一つとされていますが、近年話題になっている「大人の発達障害」のように、青年期や成人期であっても発達障害の症状が現れることがあります。なお、「大人の発達障害」の医学的定義はありません。


(2)発達障害の要因
🍅以下、米澤(2012)、黒田(2017)、宮岡・小川(2019)による知見を参考に整理しました。
🍅発達障害も、精神疾患と同様に遺伝的要因と環境的要因の相互作用により生じると考えられています。遺伝的要因については、特定または複数の遺伝子の関与による脳機能障害とする説が有力視されています。
🍅一方、環境的要因については、1940年代にカナーL.Kanner)が自閉症について母親の養育態度や厳格な子育て方針によって子どもに負荷がかかることが原因であるとする説を唱えて以降、これを支持する研究が相次いだことから、自閉症児を抱える親を苦しめるという残念な歴史が残されています。また、近年ではファストフード偏食説やゲーム脳説などさまざまな説が提唱されていますが、いずれも実証研究の結果ほぼ否定されています。
🍅環境的要因の一つとして近年見逃せなくなってきているのが、子どもが後天的に化学物質に曝露されていると思われることです。たとえば、黒田(2017)は近年の発達障害の増加について神経毒性を持つ化学物質に焦点を当てています(具体的にはネオニコチノイド農薬)。
🍅いずれにせよ、発達障害は遺伝的要因、環境的要因によって先天的、生後比較的早期に何らかの脳機能の偏りがあって、それが発達期に症状としてあらわれてくると考えられています。


2.二次障害の考え方



🍅ASDやADHD、LDなどの発達障害児者が無気力や抑うつ、不安、強迫症状、統合失調症様症状などの精神症状を、また児童、生徒、学生については不登校やひきこもりなどの症状を併せ持っていることが近年知られるようになってきました。専門家の中では、これを二次障害と呼んでいます。


(1)二次障害とは
🍅以下、高橋ら(2006)、井上(2010)、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所(2012)、宮川(2012)、原田(2019)による知見を整理します。
🍅二次障害の定義は、じつは定まっていません。今回管理人が目を通した先行研究でも複数の見解がみられましたが、医学分野では①二次障害が一次障害と何らかの関連があること②その関連が因果関係であること、という2つの要件を満たすときに用いられるようです。
🍅精神科領域では併存症comorbidity)という概念があります。これは生命予後との関係で用いることが多く、かつ、一次障害と二次障害との関連の有無を問わない場合に用いられる傾向にあります。また、併存症は合併症という表現に近く、ある疾患に別の疾患や症状が合併しているという意味で用いられます。ただし、二次障害と併存症の区別も実際には厳密ではありません。

  👀なお、併存症については以下のページで取り上げています。


(2)二次障害の発生要因
🍅以下、高橋ら(2006)、井上(2010)、三宅ら(2011)、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所(2012)、宮川(2012)、原田(2019)、宮岡(2019)による知見を整理します。
🍅二次障害の発生要因については、発達障害児に対応する側によって、①教育や教員の要因、②養育者の要因、③臨床家の要因、④社会の要因、に分類することができます。

①教育や教員の要因
・教育現場や教員に発達障害に関する知識と技術が備わっておらず、このため発達障害児が問題行動を起こした際に適切な対応を取ることができず、その結果その障害児の問題行動や障害が増悪し、二次障害の発生を引き起こす、というもの。

②養育者の要因
・自分の子どもが発達障害であることに気づかないか、それを否定することによって、誤解されやすい発達障害の症状特性に対して養育者が誤った対応(言葉の理解が悪い、目を合わせない、落ち着きがないので叱責するなど)を取ることによって症状をますます悪化させてしまい、二次障害の発生につながる、というもの。

③臨床家の要因
・たとえば、不登校やひきこもりなどを主訴とする子どもを受診した精神科医などの臨床家が、表面的な症状の評価に引っ張られて発達障害としての要素をアセスメントせずに見落とし、その子どもの発達障害に対する治療やケアができないまま二次障害を発生させてしまう、というもの。

④社会の要因
・社会全体という大きな意味ではなく、その発達障害児が所属するいろんな集団、たとえば友だち集団や学級集団、クラブ活動の集団で本人以外のメンバーが発達障害に関する知識や支援方法を知らないためにいじめや疎外を発生させ、本人がさらに自己評価を低下させ、二次障害の発生につながる、というもの。

🍅発達障害児への介入や支援は、その子どもの発達段階や該当学年次に十分配慮したものでなければなりません。たとえば、学習障害では、学業不振という一次障害が目立つのは小学校低中学年で、高学年以降は学校不適応や不登校などの二次障害が目立つようになる傾向があります。これは、当初の一次障害の段階で周囲から褒められず失敗体験となったり、達成感が得られないことで自己評価が低くなることによると考えられています。そして、二次障害として不登校が生じたときに教員や養育者が不適切な対応をして無理に学級復帰をさせても、一次障害の対応をおろそかにしたままであることから同じ体験を繰り返すことになり、再び不登校になる可能性が高くなるといわれています。
🍅(2021/7/13)宮岡・小川(2019)は、幼少期にASDやADHDと気づかれず、親をはじめとする周囲の者が「言葉の理解が悪い」「目を合わせない」「落ち着きがない」などの理由で不適切に接していることがあり、この不適切な生育環境が後々の性格形成などの精神面に影響すると述べています。


(3)二次障害に関する研究
🍅では、発達障害児者の二次障害としてはどのようなものがあるのでしょうか。少ないながらも、実態調査がいくつか行われています。
🍅中野(2009)は、小中高校の不登校児・生徒に関する大規模調査を行っています。この場合は不登校が二次障害となります。その結果、不登校児・生徒のうち発達障害の疑いがある者は小学生16.1%中学生7.9%高校生13.3%であったと報告しています。
🍅三宅ら(2011)は、大学の心理相談室を利用した学生を調査した結果、高機能自閉症、アスペルガー障害、特定不能の広汎性発達障害(PDDNOS)、ADHDなどを持つ学生がおり、これらのうち約9割に精神疾患の二次障害がみられ、気分障害が39.6%で最も多く、次いで不安障害が約32%と続いたと報告しています。
🍅宮ら(2016)は、大学病院小児科外来を受診した発達障害患者に対する調査から、受診時の年齢が上がるほど二次障害が認められる例が有意に増加しているとする結果を報告しています。


3.個々の発達障害と二次障害



🍅先行研究をみる限り、二次障害が問題とされる発達障害としては自閉症スペクトラム障害またはアスペルガー障害(ASD)(従来の広汎性発達障害(PDD)を含む)、注意欠陥・多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)があげられます。


(1)アスペルガー障害(ASD)(現在は自閉症スペクトラム障害)
🍅アスペルガー障害という障害名は現在、自閉症スペクトラム障害に再編されています。
🍅以下、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所(2012)、桐山・石川(2014)、藤尾ら(2015)、鳥取大学らの研究グループ(2019)、池内ら(2019)、岡田(2019)による先行研究のレビューや自身らの調査結果を整理します。

・医療機関を受診したASD患児が不安障害を抱える割合は、複数の不安障害61%、全般性不安障害35%、特定の恐怖症37%、広場恐怖35%、強迫性障害25%、パニック障害6%であった(Joshi:2010ほか)
・特別支援学校に通学するASD患児が不安障害を抱える割合は42%(特定の恐怖症31%、社会恐怖7%、強迫性障害10%)であった(Gjevik:2011ほか)
・ASD患児が不安障害を抱える割合は41.9%であった(Simonoffら:2008)
・ASD患児は、分離不安障害、社会恐怖、強迫性障害、パニック発作広場恐怖、外傷恐怖、全般性不安障害などの不安が健常児よりも有意に高い(鳥取大学ら:2019)
・対人関係面の困難に直面することが後の不安や抑うつの症状に繋がる(Whiteら:2009)
・ASD患児が精神科を受診するのは、自閉症の診断以外にも強い攻撃性、多動性、不安、抑うつなどの二次障害による症状が現れているからだ(RUPP Autism Network:2002;RUPP Autism Network:2005;Gadow:2005;Gadow:2004;Vickerstaff:2007;Sterling:2008)
・ASD患児が成人するにつれ、対人環境や社会的な環境が複雑化することにより年齢に伴って不安の問題がより深刻化する(Simonoffら:2008)
・ASD患児が学齢期になると、対人関係が家族から仲間関係へと広がり、そこで対人関係形成の困難に直面し、いじめや孤立によって自己評価を下げやすく、不安や抑うつを抱えやすくなる(岡田:2019)

🍅(2021/7/13)片岡(2014)は当事者の立場から、ASDの患児は「自分が不安である」ことを正確に認知し、それを他者に対して正確に表出することが難しく、不安という状態を教師や親などの身近な大人が気づきにくいと指摘しています。そして、ASD患児が「不安を他者に訴えることで不安への対処スキルを共有していく」ための、専門用語の習得による自己の状態像を認識する訓練の重要性を訴えています(ご本人も子どもの頃はわからず、のちに精神医学用語を学んだことで自分の困難を認識し、回復への手がかりをつかむことができたと述べられています)。


(2)注意欠陥・多動性障害(ADHD)
🍅ADHDは、純粋なADHDの症状だけを示すことは稀で、二次障害を抱えることのほうがはるかに多いと考えられています。
🍅以下、独立行政法人国立特別支援教育総合研究所(2012)による先行研究のレビューを整理します。

・ADHD児が気分障害や不安障害を併発する割合は13~51%である(Ollendick:2008)
・ADHDを持つ就学前児童が複数の不安障害を抱える割合は28%である(Wilens:2002)
・ADHDを持つ学齢児が複数の不安障害を抱える割合は33%である(Wilens:2002)
・ADHDを持つ成人が不安障害を抱える割合は47.1%(全般性不安障害8.0%、PTSD11.9%、パニック障害8.9%広場恐怖4.0%特定の恐怖症22.7%、社会恐怖29.3%、強迫性障害2.7%)である(Kessler:2006)

🍅ADHDの特徴は、多動と不注意、衝動性です。市川(2008)は、これまでADHDは予後が良いと考えられてきたが、近年は対応によっては思春期以降に衝動性の問題が顕在化して不安障害や気分障害に移行する場合があるとする先行研究をあげた上で、多動は自然に収まるが不注意や衝動性はそのまま成人期に移行することがあると述べています。
🍅原田(2019)は、こうした多動、不注意、衝動性は目に見えやすく、かつ、周囲からは「わがまま」「反抗期」「やる気の問題」などと誤解されることが多いと述べています。


(3)学習障害(LD)
🍅独立行政法人国立特別支援教育総合研究所(2012)は先行研究から、以下の点を指摘しています。

・特異的な読み困難を抱える患児が不安障害を抱える割合は9.9%(全般性不安障害2.9%、分離不安障害3.5%、特定の恐怖症1.5%、社会恐怖1.4%、パニック障害0.3%広場恐怖0.3%、PTSD0.1%、強迫性障害0.4%、特定不能の不安障害2.2%)である(Carrol:2005)

🍅原田(2019)は、LDでは親や教員から「努力不足」や「やる気」の問題と誤解され、年齢を経るにつれて学業が複雑になるほど本人が孤立し、取り残されることが多いと指摘しています。


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🍅さいごに、このページを作成するにあたって目を通した論文のうち「パニック障害」と、子どもが起こす錯乱状態や暴れるといった行動異常としての「パニック」を混同している例が少なからず見られました。特に教育実践に関する論文でその傾向が顕著で、管理人としては非常に残念でした。たしかに、パニック障害の患者のほとんどはパニック発作の状態を他人に見せることが少なく、実際の場面が見えにくいがゆえに「パニック」という字面に影響されやすいことはやむを得ないことではあります。しかしながら、現代の公教育に携わる教員は研修機会が非常に多いはずなので、それこそ発達障害児の二次障害発生を予防するために、パニック障害に対する正確な理解を得て頂きたいと思います。同時に、パニック障害患者や当事者で余裕のある人(管理人を含む)もどんどん発信していかなければとも思います。


文献

独立行政法人国立特別支援教育総合研究所(2012)『発達障害と情緒障害と教育的支援に関する研究―二次障害の予防的対応を考えるために―研究成果報告書』.
鳥取大学・徳島文理大学・神戸大学プレスリリース(2019)「発達障害をもつ子どもの不安が日本においても高いことを確認」2019年10月29日付.
藤尾未由希・小倉加奈子・砂川芽吹・山本瑛美・下山晴彦(2015)「強迫症状をもつ発達障害児への認知行動療法プログラム開発の試み」『東京大学大学院教育学研究科臨床心理学コース紀要』第38集、pp27-35.
原田剛志(2019)「発達障害における三次障害」『明星大学発達支援研究センター紀要 MISSION』第4号、pp91-94.
市川宏伸(2008)「発達障害とその周辺」『精神神経学雑誌』第110巻第4号、pp321-326.
池内由子・武井祐子・岡野維新・水子学(2019)「自閉スペクトラム症児の睡眠に関する研究動向と今後の展望」『川崎医療福祉学会誌』第29巻第1号、pp1-7.
井上雅彦(2010)「二次障害を有する自閉症スペクトラム児に対する支援システム」『脳と発達』第42号、pp209-212.
片岡聡(2014)「自閉症スペクトラム障害と不安―当事者の立場から―」『不安障害研究』第5巻第2号、pp110-115.
桐山佳奈・石川信一(2014)「不安症状を中心とした二次障害を抱える自閉症スペクトラム障害の子どもに対する認知行動療法の課題と展望」『心理臨床科学』(同志社大学心理臨床センター)第4巻第1号、pp39-51.
黒田洋一郎(2017)「発達障害など子どもの脳発達の異常の増加と多様性」『KAGAKU』第87巻第4号、pp388-403.
宮一志・田仲千秋・田中朋美(2016)「学齢期発達障害・知的障害児の二次障害合併の検討」『とやま発達福祉学年報』(富山大学人間発達科学部発達教育学科発達福祉コース)第7号、pp23-27.
三宅典恵・岡本百合・黒崎充勇・他(2011)「大学メンタルヘルスにおける発達障害について(1)―来所動機や二次的障害などの背景について―」『総合保健科学』(広島大学保健管理センター研究論文集)第27号、pp9-14.
宮岡等・小川陽子(2019)「大人の発達障害と精神疾患の鑑別と合併―その意義―」『心身医学』第59巻第5号、pp416-421.
中野明德(2009)「発達障害が疑われる不登校児童生徒の実態―福島県における調査から―」『福島大学総合教育研究センター紀要』第6号、pp9-16.
岡田俊(2019)「発達障害のある人の育ちを通した理解と育みの支え」『精神神経学雑誌』第121巻第9号、pp715-720.
高橋智・谷田悦男・内野智之(2006)「軽度発達障害児の学校不適応問題の実態と対応システムの構築に関する実践的研究」『研究助成論文集』(明治安田こころの健康財団)pp13-22.
米澤慶一(2012)「発達障害について考える:共に生きる社会の構築」『NLI Research Institute REPORT』2012年1月、pp18-27.

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