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パニック障害患者の家族の負担感

1.パニック障害患者とその家族を取り上げた研究は存在しない



🍅このページでは、パニック障害患者を抱える家族の負担を取り上げてみたいと思います。ところが、管理人が探した範囲ではパニック障害患者の家族の負担を取り上げた研究は全くありませんでした
🍅これは、精神疾患の研究と実践の両方でパニック障害のような不安障害群は「軽症」とされていて、統合失調症患者を中心とした研究、実践をいまだに引きずっているからです。
🍅精神疾患患者の家族に対するケアは社会福祉分野の問題です。医学的な研究がパニック障害や不安障害に力を注ぐ反面、パニック障害や不安障害に関する社会福祉分野の研究や実践は完全に立ち遅れているんです。よって、パニック障害患者とその家族は社会福祉実践に頼れないという現実があります。
🍅てなわけで、以下に紹介する研究の多くは統合失調症患者の家族に関するものとお考え下さい。


2.精神疾患患者を抱える家族の研究の時代的変遷



(1)精神疾患患者を抱える家族の責任をめぐって
🍅一般に、日本では精神疾患をめぐって、家族の役割や責任がことさら強調されてきました。
🍅杉森(2017)は、精神疾患患者を抱える家族は遺伝的要因という病理を背負わされ、早期発見・早期治療を見逃した責任を問われ、日本の伝統や慣習として家族内に精神疾患患者がいる場合にこれを治療・介護する責任を負わされ、患者の意思に反して入院させた場合に患者から憎まれるなど、あらゆる責任を引き受けてきたと指摘しています。
🍅吉岡ら(2019)も、日本では高齢者や子どもの分野を中心に「ケアの社会化」が進められたものの、精神保健福祉分野ではそれは立ち遅れており、家族がすべてを背負わされていると指摘しています。
🍅そして、末光(2018)は「援助者としての家族」だけでなく「生活者としての家族」という視点から患者の家族を捉えるべきであると述べ、高橋・吉賀(2004)も精神疾患患者の親自身の「生きにくさ」を明らかにすべきと述べ、患者の家族の負担をめぐる研究の重要性を訴えています。


(2)精神疾患患者の家族に関する研究の全体的な傾向
🍅南山(1999)、中坪(2008)、田野中(2011)、末光(2018)は統合失調症患者の家族に関するいろんな研究を整理して、時代ごとに研究の焦点が異なると述べています。すなわち、世界的な傾向としては以下の3期に分けられます。

①1940年代から1970年代
家族病因論(統合失調症の原因は家族であるとする考え方)を中心とした研究の時代。
・家族病因論は主として精神医学の立場からの研究が多く、治療のための家族研究という意味合いがあった。

②1960年代から1980年代
感情表出Expressed Emotion:EE;否定的な感情表出が高い家族ほど患者の再発率が高いとする概念)を中心とした研究の時代。
・家族に対する心理教育の必要性が強調されたが、これは患者のためであって家族の負担軽減には繋がらなかった。

③1990年代から2000年代
・家族の介護負担感やその対処行動(ストレスコーピング)を中心とした研究の時代。
・ストレスコーピングの研究は主に社会学や社会福祉学の立場からの研究が多く、家族を一つのシステムとして捉え、その変化を分析する。

🍅また、高橋・吉賀(2004)は障害児の子育てに関する研究について、1980(昭和55)年頃までは親子関係(特に母子関係)に集中しており、その後研究の範囲が親子関係から夫婦関係を中心とする家族関係に移り、さらに近隣や地域との関係にまで広がっていったと述べています。


3.精神疾患患者を抱える家族の負担の内容



🍅では、精神疾患患者を抱える家族の負担にはどのようなものがあるのでしょうか。大まかには以下の6つに分けることができます。


(1)患者と接することによる精神的負担
🍅このブログをご覧になっている方ならば十分ご存知の通り、精神疾患の多くはすぐに完治するという性質のものではなくて、寛解と増悪を繰り返したり一進一退だったりと、長期間の治療を余儀なくされます。そのため、患者が自宅で療養するとなると家族との直接的な接触が多くなります。患者の配偶者、患者の親、患者の子など、さまざまな関係のかたちはあるにせよ、長くて数十年のスパンで家族は自分の時間の多くを感情をすり減らしながら患者の対応に費やさなければなりません。
🍅山下ら(2014)は、気分障害の患者が自宅にひきこもりがちになると、家族は患者の言動や無気力な態度、苛立ちなどによって大きなストレスを受けるが、患者の病状を悪化させないように感情を抑圧しがちであると述べています。
🍅杉森(2017)は、患者のケアの担い手である家族のQOLQuality of Life;生活の質)は当然低下するが、「家族が精神疾患患者をケアすべき」とする社会規範がある以上そうせざるを得ないと述べています。
🍅また、長期間にわたって患者と接しなければならないがゆえに家族が自分の時間を取ることができないこともストレスになっているようです。松田ら(2013)は、患者の家族が自分の時間を取れないことと(家族の)精神的健康の悪化との間に有意な関連があったと報告しています。
🍅さらに、家族は患者に対してさまざまなジレンマを抱いているようです。たとえば佐藤ら(2016)は調査から、家族は苦しむ患者を見て「何とかしてやりたい」と思う一方、「本人が何を考えているのか、どうしてほしいのかが分からず途方に暮れる」という葛藤が生じると報告しています。
🍅南山(1996)は患者の家族への調査から、何らかの転換点となる出来事の経験(特に、理解のある他者や専門職との出会いといった人的な資源の獲得)がきっかけとなって家族の認知や対処が変化し、外部のサービスやサポートに繋がる可能性があると報告しています。また、宇治郷(2011)は患者の家族への調査から、家族会との出会いにより受容、共感してもらう体験を通して精神的健康を取り戻したと報告しています。さらに、豊島ら(2008)は患者の家族への調査から、家族は患者の病状が安定すると精神的に安定することや、訪問看護師に家族の立場を理解してもらえることで家族自身の用事をしやすくなったこと、訪問看護師から専門的知識を教えてもらうことによって患者の症状変化に対応できるようになったことなどを報告しています。このように、家族の精神的な負担が軽減されるきっかけとして、理解してくれる何らかの人的資源との出会いが重要であることがわかります。
🍅一方、公益社団法人京都精神保健福祉推進家族会連合会(2017)は、患者が精神疾患を発症してから病状が安定するまでに家族がどのような危機を経験し、切り抜けてきたかを調査しています。その中で、患者のことではなく、家族の困りごとや困難に関して主治医や他の専門職から尋ねられたかを問い、49.6%が尋ねられたことはないという結果から、医師や他の専門職が患者以外の家族の生活や人生に関心を持っていない可能性を指摘しています。


(2)社会的孤立
🍅精神疾患患者の家族は社会的に孤立しやすいことが複数の研究者により指摘されています。長期間にわたって患者のケアを行う状況に置かれると、家族員各自の人間関係の幅が狭くなったり疎遠になったりすると考えられます。山下ら(2014)は社会的な偏見や友人関係の崩壊を恐れて、外部に患者のことを打ち明けられずに交友関係が狭くなっていく可能性を指摘しています。
🍅また、患者の家族は地域住民の一人でもあり、地域住民に対しても何らかの「説明」を求められることがあります。杉森(2017)は、そうした地域社会に対する説明の中で謝罪を行う役割を強いられていると指摘しています。
🍅家族の社会的孤立をめぐって、南山(1996)は患者の家族への調査から、家族の語りの中に近隣社会や一般社会の人が支援的な存在として登場することがほとんどなかったと指摘しています。このことからは、地域社会と精神疾患患者を抱える家族の両方がお互いに閉ざし合っていて、家族の社会的孤立の状況がかなり深刻であることが分かります。


(3)経済的負担
🍅精神疾患患者を抱える家族でその患者が職を得ていない場合、家族に経済的負担がかかることになります。これは医療費だけでなく生活費も含みます。経済的負担に関しては、特に研究を参照せずとも理解が可能ですのでここでは取り上げません。


(4)障害受容
🍅障害受容とは、障害者が自分が持つ障害を受け容れ、社会生活を送っていく上で肯定的、積極的な態度に転じることをいいます。
🍅障害受容には、患者本人の受容と、その家族の受容があります。また、家族からみれば、障害の受容という意味に加えて障害を持つ患者の受容という意味を含んでいます。
🍅障害受容には以下のプロセスがあります。これは家族も同様で、家族が精神疾患患者の障害を受容することもまた家族の精神的な負担となるほか、全ての家族が受容に至るわけではありません。

  ショック期(障害の発生にショックを受ける)
          ↓
  否認期(自分が障害を持ったことを否定する)
          ↓
  混乱期(死にたくなったり、怒りが生じたりするなどさまざまな感情が交錯する)
          ↓
  解決への努力期(このまま混乱しても無駄だと考え、何をすべきかを模索する)
          ↓
  受容期(これが自分が置かれている状況だと認める)

🍅高橋ら(2004)は、理屈としては分かるけど情緒的にはなかなか処理できないと述べているほか、栄・岡田(1998)は患者本人と家族の障害受容について、中・高年になるにつれて受容は難しくなるとし、受容に失敗すると生活上の問題が生じたり、非現実的な期待をもつ傾向にあると述べています。


(5)就労への期待と不安
🍅精神疾患患者を抱える家族が抱える切実な問題の一つが就労で、患者が定職に就くことや職場復帰すること、そして就労を継続することが家族におけるケアの一つの終点と考えられています。そして、精神疾患患者にとって就労には家族の協力が不可欠で、中戸川(2015)は、家族の支えが患者本人の労働意欲を支える要素の一つであって、就労に関する家族の想いが患者本人の姿勢に影響すると述べています。
🍅中戸川(2015)は、精神疾患患者を持つ子どもの就労に関する調査から、親の想いには以下の4つのプロセスがあると述べています。

  ①親としての期待
  ・愛情と苛立ちのアンビバレンス(一人前になって欲しい vs 何をやっているのかという腹立たしさ)
      ↓
  ②親の力だけではどうにもならない無力感
  ・子どもなりの活動と挫折の繰り返し
  ・病気の理解に伴う苦痛(病気の理解が遅れたという罪悪感・障害を抱えた不憫さ・薬物療法への複雑な想い)
  ・就労の可能性への見極め(安定しない症状の観察)
  ・社会で支える仕組みへの願い(精神障害者の特性を知ってほしい・少しずつ次のステップに進みたい)
      ↓
  ③できれば働かせてあげたいという親心
  ・働きたいという望みを支えたい(理解ある環境で働かせてあげたい・働きたい気持ちを大切にしたい)
  ・自己効力感を高めたい(働くことは自信に繋がる・働くことはお金じゃない)
      ↓
  ④親として就労より生活維持を優先してほしい
  ・就労への焦りのやわらぎ(今の子どもを見守りたい・無理に働くより健康を大切にしてほしい)
  ・子どものいいところを大切にしたい

🍅これらのプロセスの中には障害受容に関する内容も含まれていて、患者の障害の内容を理解しながら家族としても何らかの折り合いをつけ、就労に関しても無理のない範囲での就労を希望するなど、家族の想いが変化していく様子が分かります。
🍅一方、難治性の精神疾患や遷延性で完治が困難な精神疾患の場合、健常者と同様の労働条件での就労継続が難しく、周囲がそのような選択肢を提示することは非現実的であるという判断も重要となってきます(管理人自身もそう思っています)。さきに述べたように、社会福祉分野のパニック障害患者や不安障害患者への対応は明らかに遅れており、障害者総合支援法の就労関連サービスメニューでも、毎日外出させることや定時出勤、定時退勤させる訓練を患者を個別化せずに一律に行う事業所がほとんどで、難治性、遷延性の場合にはこのような訓練は適切とはいえません。したがって、患者を支える家族には病状に応じた現実的な就労形態を探したり開拓していくという発想の転換が求められています


(6)将来の見通しに対する不安
🍅精神疾患患者を長期間ケアする家族員もまた歳を取っていきます。特に、患者をケアする家族が親である場合、患者も家族も加齢にしたがって負担が大きくなります。そして、親である家族員の健康状態が悪化すると、親が亡くなった後の患者の精神的、経済的自立をどうしていくのかという問題に必ず直面します。栄・岡田(1998)は患者の家族への調査から、「将来に対する不安」をあげる家族が一番多かったと報告しています。
🍅吉岡ら(2019)は、「親亡き後」の患者の生活について漠然と不安を募らせるのではなくて、経済的見通しの計算や患者のサバイバルプランを具体的に準備すべきと提言しています。一方、高橋・吉賀(2004)はそうした「親亡き後」の対策の必要性をあまり強調し過ぎると子育てや介護の全責任が家族にあるという誤解を与えてしまい、結果としてより強く家族を縛ってしまうと指摘しています。


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🍅(2021/5/15)以上にみた精神障害者の家族に関する研究のほとんどは統合失調症患者を前提としたものです。統合失調症患者の生活場所は、長い間「精神科病院」か「家族」という2つの選択肢しか存在しませんでした。社会全体が統合失調症患者の精神科病院長期入院を糾弾すると「では家族と暮らすことはできるのか」ということになり、今度は家族に負担がかかるという具合です(近年は別の選択肢が徐々に増えつつあります)。
🍅(2021/5/15)一方、パニック障害患者の場合は「病院」という選択肢はほとんど存在しません(実際、パニック障害だけを理由に精神科病院に入院する事例はほとんどありません)。しかしながら、上にあげた家族が抱える負担の内容は統合失調症もパニック障害もそれほど変わらないのではないかと思います。


文献

公益社団法人京都精神保健福祉推進家族会連合会・研究チーム(2017)「本人が精神疾患を発病してから病状が安定するまでに経験する家族の困難と必要な支援」『心理社会的支援研究』第8集、pp61-79.
松田陽子・船越明子・北恵都子・羽田有紀(2013)「精神障害者を抱える家族の精神的健康に影響を与える要因の検討」『三重県立看護大学紀要』第17号、pp59-65.
南山浩二(1996)「精神障害者家族の認知と対処に関する研究」『社会福祉学』第37巻第1号、pp38-55.
南山浩二(1999)「精神保健福祉システムの変容と精神障害者家族研究」『人文論集』(静岡大学)第50巻第1号、pp1-19.
中戸川早苗(2015)「精神障害者の就労に関する家族の想いと支援のあり方」『家族看護学研究』第21巻第1号、pp50-66.
中坪太久郎(2008)「統合失調症の家族研究の展望」『東京大学大学院教育学研究科紀要』第48巻、pp203-211.
栄セツコ・岡田進一(1998)「精神障害者家族の生活上の困難さに関する研究」『大阪市立大学生活科学部紀要』第46巻、pp157-167.
佐藤純・松田美枝・橋本史人・菊池彰倫・松本裕介・畚野真木(2016)「通所サービス等を利用していない精神障害者をケアする家族が経験する困難とその対処」『京都ノートルダム女子大学研究紀要』第46号、pp43-54.
末光翔(2018)「精神障害者家族の家族支援論に求められる視点の検討―『家族による家族学習会』の『事後振り返り』場面に着目して―」『東京大学大学院教育学研究科紀要』第58巻、pp237-247.
杉森美和子(2017)「精神疾患における患者の家族への役割期待―全国精神障害者家族会連合会の活動を中心に―」『東京大学大学院教育学研究科紀要』第57巻、pp399-408.
高橋幸三郎・吉賀成子(2004)「障害者家族の生活困難に関する研究」『東京家政学院大学紀要』第44号、pp75-84.
田野中恭子(2011)「統合失調症の家族研究の変遷」『立命館人間科学研究』第23号、pp75-89.
豊島泰子・藤生君江・飯田澄美子(2008)「精神障がい者の家族の訪問看護に対する肯定的な捉え」『家族看護学研究』第13巻第3号、pp158-164.
宇治郷雅子(2011)「精神障害者を抱えた家族の精神的健康について」『心理相談センター年報』(比治山大学)第7号、pp29-36.
山下直美・葛岡英明・平田圭二・工藤喬(2014)「うつ病患者の家族看護者が抱える社会的負担を構成する要素の解明」『情報処理学会論文誌』第55巻第7号、pp1706-1715.
吉岡京子・黒田眞理子・篁宗一・蔭山正子(2019)「親亡き後の精神障害者の地域生活を見据えた親の準備の解明」『日本公衆衛生学会誌』第66巻第2号、pp76-87.

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