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パニック障害の疫学(併存症・受療行動・転帰)

1.併存症(comorbidity)に関する研究



🍅パニック障害を含む不安障害をめぐっては、従来から併存症comorbidity)の存在が指摘されてきました。これには、それぞれの疾患名がどこからどこまでを指すのかという線引きが難しいという問題や、複数の併存症を抱えているとして、どれを主としてどれを併存症にするかという順序の問題などが絡んでいるようで、素人の管理人にはお手上げ。
🍅以下、貝谷(2002;2004;2008;2013)、後山(2002)、石川・坂野(2004)、塩入(2010)、上田(2019)が紹介した先行研究や自身による調査を整理します。

・不安障害の特徴として併発・併存症が多い(塩入:2010)
・不安障害は他の不安障害と併発する率が高い(塩入:2010)
・不安障害の児童は複数の不安障害を同時に発症していることが多い(Kendallら:2000;Schnieringら:2000)
・女性のパニック障害患者の57.7%が広場恐怖を併発していた(後山ら:2002)
・パニック障害患者における抑うつの併発率は31%であった(貝谷・宮前:2000)
・パニック障害を発症した後に併発する大うつ病の62.5%は非定型うつ病であった(貝谷:2003)
・パニック障害患者における大うつ病の併発率は34%であった(貝谷:2004)
・パニック障害患者におけるうつ病の生涯有病率は55.6%であった(Kesslerら:1998)
・大うつ病を併発しているパニック障害患者の87.5%は気分反応性うつ病、62.5%は非定型うつ病であった(貝谷:2004)
・広場恐怖を伴うパニック障害患者における何らかの不安障害の併発率は93.6%であった(内訳は特定の恐怖症75.2%、社会(社交)不安障害66.5%、全般性不安障害15%)(Kesslerら:2006)
・広場恐怖を伴うパニック障害患者における何らかの不安障害の併発率は84.5%であった(Kesslerら:2011)
・パニック障害よりも発症が早い社会不安障害患者におけるパニック障害の併発率は22.1%であった(Grantら:2005)
・難治性うつ病の最も大きな要因はパニック障害の併発であった(Soueryら:2007)

🍅以上の知見から、パニック障害の併存症については、不安障害と他の不安障害との併発率が高率であること、気分障害と不安障害の併発率が高率であること、の2つの傾向があるといえそうです。


2.受療行動に関する研究



(1)疾病の未治療期間(DUI/DUP)
🍅精神疾患では、精神症状の出現や自覚から医療機関受診までの期間のことをDUIDuration of Untreated Illness;疾病の未治療期間)ないしDUPDuration of Untreated Psychosis;精神疾患未治療期間)と呼んでおり、この空白の期間が長いほど、つまり治療が遅れるほど予後が不良になるといわれています。
🍅南山(1996)、川上ら(2003-2006)、公益社団法人京都精神保健福祉推進家族会連合会(2017)、茅野ら(2017)は、統合失調症患者のDUI/DUPとその要因を調査していますが、主たる要因は周囲への遠慮や周囲に知られたくないといったものでした。では、パニック障害患者ではどうでしょうか。以下の研究が行われています。

・大学病院精神科を初診したパニック障害患者の8割以上がそれ以前に別の医療機関を受診していたが、適切な診断治療がほとんどなされていなかった(森下ら:1994)
・パニック発作の性質、すなわち突然の呼吸困難や心悸亢進による恐怖感から、患者ははじめ精神科や心療内科を受診するのではなく内科系の外来を受診する傾向がある(岩舘・貝谷:1996;陳ら:2002)
・婦人心療外来病院の調査から、女性のパニック障害患者のうち56.6%がドクターショッピング(主治医をころころ変えること)を行っていた(後山ら:2002)
・女性のパニック障害患者が婦人心療外来を受診する時期は予期不安が増える時期21.6%、うつ・心気状態が出現するステージ36.0%がピークであった(後山ら:2002)

🍅以上の研究から、パニック障害の患者の多くは最初は内科疾患を疑いやすい傾向が確認されました。ただし、最初に内科系の医療機関を受診しがちであるという傾向はパニック障害がまだ社会一般に知られていなかった時代のことで、現在もこの傾向がみられるかどうかは分かりません。
🍅ちなみに、河野(1990)は神経症のうち、特に心気症と不安神経症、恐怖症特に疾病恐怖症の患者は医療への関心が非常に高く、日頃からさまざまな保健行動を実践していることや、偏執的、強迫的、執着的な傾向にある患者は注意や関心が症状や病気に向かうと異常に敏感になり、健康に熱心であると述べています。また、北川(2002)はパニック障害患者に対する質的調査から、パニック障害患者は受診に先立って、症状に関するさまざまな情報を入手していると述べています。
💔管理人と全くおんなじだ…


(2)受療率
🍅一般に、不安障害患者の受療率(医療機関を受診する割合)は低いといわれています。
🍅川上ら(2016)は大規模調査から、過去1年間に精神症状を経験した者のうち19.3%が精神科医を、12.6%が一般医を受診していたと報告しているほか、平井ら(2019)は先行研究から、精神疾患患者の受療率は約2割であるとする報告や、抑うつを抱えたがん患者に精神科受診を勧めたところ7割以上が拒否したとする報告を紹介しています。
🍅渡辺・藤田(2003)は調査から、精神障害者の全てが身近な医療機関を受診しているわけではなく、遠距離かつ広範囲に受診していることを明らかにし、その要因として精神障害に関わる偏見をあげています。
🍅以下は、統合失調症、気分障害、不安障害各患者の受療率の推移を示したグラフです。総数とは、入院+外来の総数です。上グラフにおいて、総数からみると、不安障害患者の受療率は統合失調症のそれに比べてはるかに低いことが読み取れます。一方、外来からみると3つの疾患の差は縮小します。また、不安障害と気分障害は総数、外来ともに年々受療率が向上していることが読み取れます。これは、メンタルヘルス対策や健康に関する知識の浸透という理由と、精神科の敷居が低くなっているという理由の2つが考えられます。

受療率グラフ(総数)

受療率グラフ(通院)

🍅(2021/5/14)受療率に関して、立川(2008)は1939(昭和14)年から1977(昭和52)年までの神経症の外来受診者数データから、外来受診者数は景気が上がると増加し、下がると減少すると指摘しています。


3.転帰・予後に関する研究



🍅転帰とは、病気にかかったとして、治療の結果それが治るのか悪化するのか、死亡するのか、それともいったん収まった後に再発するのかといった結果のことをいいます。類似する用語に「予後」があります。予後も似たような意味ですが、結果ではなく症状の「経過」やその後の「予測」という意味合いに重心がかかっています。
🍅病気の転帰や予後を調査しようとすると、通常の1回きりの調査(横断的調査といいます)ではなく、同じ患者を何年にもわたって追跡する必要があります(縦断的調査といいます。特に、同じ患者を追跡する方法を縦断的調査のうちパネル調査といいます)。縦断的調査の難しいところは、ドロップアウト(その患者が死亡したり、連絡が取れなくなったりする)が発生して、時間が経つにつれて回答率が減っていくことです。時間とお金がかかる方法なので、疫学における縦断的調査はあまり存在しません。
🍅以下、野崎(1995)、鑑江ら(1997;1998)、渡邊ら(2001)、貝谷(2004;2013)、西村(2010)による先行研究の紹介や自身らの調査結果を整理します。

・大学病院外来を受診したパニック障害患者の転帰について、性別との間に有意差はなかった(野崎:1995)
・大学病院外来を受診したパニック障害患者の転帰について、発症年齢が高いほうが転帰が有意に良好であった(野崎:1995)
・大学病院外来を受診したパニック障害患者の予後について、初診半年後に経過が良好であれば9割以上が2年後以降も良好で不良に転じた例がなかった(鑑江ら:1997)
・大学病院外来を受診したパニック障害患者の予後について、2年後不良群の7割以上が半年後に不良となっていることから、半年後の症状経過が長期経過の予測の目安となる(鑑江ら:1997)
・大学病院外来を受診したパニック障害患者の初診3か月後の予後について、女性のほうが予後不良であった(鑑江ら:1998)
・大学病院外来を受診したパニック障害患者の初診3か月後の予後について、フルタイム勤務者の予後は良好であった(鑑江ら:1998)
・大学病院外来を受診したパニック障害患者の初診3か月後の予後について、広場恐怖を伴うパニック障害患者は予後不良であった(鑑江ら:1998)
・大学病院外来を受診したパニック障害患者の初診3か月後の予後について、症状改善は治療初期半年間が最も顕著で、パニック発作自体はその後も着実に改善したが、広場恐怖は治療開始後1年後以降は改善が鈍る(鑑江ら:1998)
・大学病院外来を受診したパニック障害患者の初診3か月後の予後について、長期通院者の予後は必ずしも不良ではなく、むしろ長期通院者でより高い改善傾向が認められた(鑑江ら:1998)
・大学病院外来を受診したパニック障害患者の初診3か月後の予後について、人格障害の合併は予後不良である(鑑江ら:1998)
・大学病院外来を受診したパニック障害患者の初診3か月後の予後について、発症年齢、罹患期間、生育歴における分離喪失体験、教育歴、婚姻歴、家族構成は予後と有意な関連はなかった(鑑江ら:1998)
・大学病院外来を受診したパニック障害患者の初診3か月後の予後について、うつ病の合併は予後不良因子とはならなかった(鑑江ら:1998)
・初診から6年後のパニック障害患者の予後について、63.1%がパニック発作を、66.7%が広場恐怖を、73.7%が予期不安をそれぞれ経験していた(渡邊ら:2001)
・初診から6年後のパニック障害患者の予後について、42.1%が精神科に通院中で、71.9%が抗不安薬か抗うつ薬を服用していた(渡邊ら:2001)
・初診から6年後のパニック障害患者の予後について、全体としては43.9%が予後不良であった(渡邊ら:2001)
・全般性不安障害、社交不安障害、パニック障害の患者を「併発障害のない患者群」、「他の不安障害を併発している患者群」、「気分障害を併発している患者群」に分け、1年後の転帰をみると、「気分障害を併発している患者群」の寛解率が他の2群よりも有意に悪かった(van Balkomら:2008)
・不安障害の転帰について、初診10年後の寛解率が一番良いのは広場恐怖を伴わないパニック障害82%で、広場恐怖を伴うパニック障害は42%1.併存症(comorbidity)に関する研究


🍅パニック障害を含む不安障害をめぐっては、従来から併存症(comorbidity)の存在が指摘されてきました。これには、それぞれの疾患名がどこからどこまでを指すのかという線引きが難しいという問題や、複数の併存症を抱えているとして、どれを主としてどれを併存症にするかという順序の問題などが絡んでいるようで、素人の管理人にはお手上げ。
🍅以下、貝谷(2002;2004;2008;2013)、後山(2002)、石川・坂野(2004)、塩入(2010)、上田(2019)が紹介した先行研究や自身による調査を整理します。

・不安障害の特徴として併発・併存症が多い(塩入:2010)
・不安障害は他の不安障害と併発する率が高い(塩入:2010)
・不安障害の児童は複数の不安障害を同時に発症していることが多い(Kendallら:2000;Schnieringら:2000)
・女性のパニック障害患者の57.7%が広場恐怖を併発していた(後山ら:2002)
・パニック障害患者における抑うつの併発率は31%であった(貝谷・宮前:2000)
・パニック障害を発症した後に併発する大うつ病の62.5%は非定型うつ病であった(貝谷:2003)
・パニック障害患者における大うつ病の併発率は34%であった(貝谷:2004)
・パニック障害患者におけるうつ病の生涯有病率は55.6%であった(Kesslerら:1998)
大うつ病を併発しているパニック障害患者の87.5%は気分反応性うつ病、62.5%は非定型うつ病であった(貝谷:2004)
・広場恐怖を伴うパニック障害患者における何らかの不安障害の併発率は93.6%であった(内訳は特定の恐怖症75.2%、社会(社交)不安障害66.5%、全般性不安障害15%)(Kesslerら:2006)
・広場恐怖を伴うパニック障害患者における何らかの不安障害の併発率は84.5%であった(Kesslerら:2011)
・パニック障害よりも発症が早い社会不安障害患者におけるパニック障害の併発率は22.1%であった(Grantら:2005)
難治性うつ病の最も大きな要因はパニック障害の併発であった(Soueryら:2007)

🍅以上の知見から、パニック障害の併存症については、不安障害と他の不安障害との併発率が高率であること、気分障害と不安障害の併発率が高率であること、の2つの傾向があるといえそうです。


4.その他のデータ(2021/6/21)



🍅パニック障害の疫学について、これまでに取り上げていないカテゴリーのデータを以下に列挙します。

・女性のパニック障害患者のうち41.8%が手術経験があり、このうち婦人科手術の占める割合が65.8%であった(後山ら:2002)
・女性のパニック障害患者のうち22.5%に対象喪失体験があり、その約9割は男性であった(後山ら:2002)
・女性のパニック障害患者のうち38.1%に夫婦交流に問題がみられた(後山ら:2002)
・女性のパニック障害患者のうち67.5%に失感情症がみられた(後山ら:2002)
・何らかの身体疾患を持つ患者について、パニック障害や身体表現性障害の有病率は健康な人の10~20倍である(Katholら:2006)


文献

公益社団法人京都精神保健福祉推進家族会連合会・研究チーム(2017)「本人が精神疾患を発病してから病状が安定するまでに経験する家族の困難と必要な支援」『心理社会的支援研究』第8集、pp61-79.
平井啓・谷向仁・中村菜々子・山村麻予・佐々木淳・足立浩祥(2019)「メンタルヘルスケアに関する行動特徴とそれに対応する受療促進コンテンツ開発の試み」『心理学研究』第90巻第1号、pp63-71.
石川信一・坂野雄二(2004)「児童期の不安障害に対する認知行動療法の展望」『行動療法研究』第30巻第2号、pp125-136.
岩舘憲幸・貝谷久宣(1996)「パニック障害の行動療法事例について―自律訓練法と曝露療法の併用―」『東海女子短期大学紀要』第22号、pp109-121.
鑑江佳代・鑑江真二郎・八島章太郎・清水宗夫(1997)「パニック障害の長期通院者の予後予測について」『東京医科大学雑誌』第55巻第5号、p694.
鑑江真二郎・鑑江佳代・八島章太郎(1998)「パニック障害の経過と予後―315例の外来症例の検討から―」『東京医科大学雑誌』第56巻第4号、pp485-496.
貝谷久宣(2004)「パニック性不安うつ病」『心身医学』第44巻第5号、pp361-367.
貝谷久宣(2008)「不安障害は難治性うつ病の萌芽」『心身医学』第48巻第1号、p9.
貝谷久宣(2009)「“不安・抑うつ発作”を見逃さない」『心身医学』第49巻第9号、pp1017-1022.
貝谷久宣(2013)「不安障害研究鳥瞰―最近の知見と展望―」『不安障害研究』第4巻第1号、pp20-36.
川上憲人ら(2003-2006)「こころの健康についての疫学調査に関する研究」『平成16~18年度厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)こころの健康についての疫学調査に関する研究総合研究報告書』.
川上憲人ら(2016)「精神疾患の有病率等に関する大規模疫学調査研究:世界精神保健日本調査セカンド」『厚生労働省厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業)(H25-精神-一般-006)国立研究開発法人日本医療研究開発機構障害者対策総合研究開発事業(精神障害分野)(15dk0310020h0003)』.
河野友信(1990)「日本人の保健行動とヘルスプロモーション―心身症外来患者を中心に―」『日本保健医療行動科学会年報』第5巻、pp82-93.
茅野分・藤井千代・村上雅昭・水野雅文(2017)「精神疾患を生じた医師の受療行動と適切な診療」『精神科治療学』第32巻第4号、pp555-561.
北川賢明(2002)「パニック・ディスオーダーにおける患者の受療意識」『日本保健医療行動科学会年報』第17巻、pp248-258.
南山浩二(1996)「精神障害者家族の認知と対処に関する研究」『社会福祉学』第37巻第1号、pp38-55.
森下茂・植田美穂子・山本博三・渡辺昌祐(1994)「Panic Disorder研究 第1報」『川崎医学会雑誌』第20巻第1号、pp19-21.
西村幸香(2010)「非侵襲脳計測を用いたパニック障害発症に関わるネットワークの解明」『科学研究費補助金研究成果報告書』平成22年5月10日現在.
野崎伸次(1995)「Panic Disorderの臨床的特徴と転帰について」『昭和医学会雑誌』第55巻第4号、pp353-360.
塩入俊樹(2010)「不安障害の病態について:Stress-induced Fear Circuity Disordersを中心に」『精神神経学雑誌』第112巻第8号、pp797-805.
立川昭二(2008)「景気と神経症―精神病院の受診者数」『救急救命』第21号、pp18-19.
上田紋佳(2019)「不安症とうつ病のcomorbidityに関する考察―多重経路モデルに着目して―」『岡山大学大学院教育学研究科研究集録』第172号、pp35-47.
後山尚久・池田篤・東尾聡子・植木實(2002)「女性のパニック障害に関する発症誘因の心身医学的研究」『日本女性心身医学会雑誌』第7巻第1号、pp70-75.
後山尚久・池田篤・東尾聡子・植木實(2002)「婦人心療外来で治療したパニック障害の発症状況と臨床像の調査」『日本女性心身医学会雑誌』第7巻第1号、pp76-80.
渡邉壮一郎・大坪天平・田中克俊・中込和幸・上島国利・鳥居成夫・吉邨善孝・宮岡等(2001)「パニック障害の6年転帰調査―retrospective study―」『昭和医学会雑誌』第61巻第3号、pp340-350.
渡辺ゆかり・藤田利治(2003)「二次医療圏との関連からみた福岡県における精神障害者の受療実態」『日本公衆衛生学会誌』第50巻第5号、pp400-413.

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