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パニック障害の疫学(有病率・発症年齢・性差)

🍅ここでは、パニック障害をめぐる疫学(病気を社会的に見た場合の特徴や頻度、割合など)を整理してみます。


1.「有意な関連があった/なかった」とは



🍅以下、文中「有意な関連があった/なかった」「有意差があった/なかった」という表現を随所で使っています。これについて説明しておきます。
🍅まず、疫学調査の多くは全数調査ではなくて標本調査なんです。全数調査とは、例えば日本国内のパニック障害患者であれば、その全員を調査することをいいます。しかし、それをやろうとすると莫大な人と時間とお金がかかります。そこで、一部の患者をかいつまんで調査し、そこから全体を推計するという方法を使います。これを標本調査といい、そのために選ばれた一部の人のことを標本、そして標本を選ぶことを標本抽出サンプリング)といいます。
🍅標本調査では、標本から全体を推計するために統計学(主に関数)を使います。関数は、私たちが中学校や高校で学んだように、基本はXとYとの関係を示すものです(関係がある/なし、だから「数」です)。
🍅たとえば、標本調査で「パニック障害」をY、「発達障害」をXとして、XとYとの関係を計算した結果、XとYは関係があった(パニック障害と発達障害との間に何らかの関連がある)とします。しかし、この調査は標本調査だから全体にこの結果が当てはまるとは限りません。そこで、統計学では同じ調査を100回行って5~0.1回の過ちを許す(つまり、残りの95~99.9回は同じ結果が出る)と確認されれば、標本だけでなく全体も同じ結果になるだろうという決まりごとを作り、「(統計学的に)有意な関連があった」「有意差があった」と表現することになっているんです。「有意」とは「意味がある」ということです。実際の調査はXとYだけでなくZが入ったり、XがX1、X2のように複数あったりしてちょっと難しいんですが、とりあえず「有意」の意味だけ知っておいて下さい。


2.有病率に関する研究



🍅有病率とは、全人口のうち、その病気に罹った人の割合のことをいいます。また、生涯有病率とは一生のうちその病気に罹る人の割合のことをいいます。
🍅まず、全体的な傾向として、現代社会では不安障害の患者は増加していて、近代化の進展と何らかの関係があると考えられています。そして、パニック障害の患者数もかなり多いとみられる一方、その有病率については国や研究によってかなりの幅があり、厳密には一致をみていません。
🍅以下、森下ら(1994)、川上ら(2003~2006;2016)、石川・坂野(2004)、黄・小野(2006)、塩入(2010)、浅見ら(2013)、貝谷(2013)、股村ら(2014)、上田(2019)による先行研究の整理や、自身らによる調査研究をまとめます。


(1)不安障害の有病率
・日本における全般性不安障害、社会恐怖やPTSDの生涯有病率は1%前後であった(川上ら:2003~2006)
・日本における不安障害の生涯有病率は4.2%であった(川上ら:2016)
・日本における、パニック障害の既往歴のない広場恐怖、PTSDの生涯有病率は大都市で高かった(川上ら:2016)
・アメリカにおける不安障害の生涯有病率は男性8%、女性19.5%であった(McGlynn & Metcalf:1989;Meyersら:1984)
・アメリカにおける児童の8~12%が不安障害を発症している(Andersonら:1987)
・アメリカにおいて小児科に通院する児童の8.9%が不安障害を発症している(Costello:1989)
・アメリカにおける思春期児童の8.7%が何らかの不安障害を発症している(Kashani & Orvaschel:1988)
・アメリカにおける不安障害の生涯有病率は、3つの調査で16.2%23.2%28.8%であった(Kesslerら:1996;Kesslerら:2005;Conwayら:2006)
・ヨーロッパ諸国における不安障害の生涯有病率は14.5%であった(Alonso & Lepine:2007)
・ヨーロッパ諸国における18歳以上人口の不安障害の生涯有病率は13.6%であった(Alonsoら:2004)


(2)パニック障害の有病率
・一般人口の約1%でみられる(Weissman:1988)
・日本の大学病院精神科の外来受診患者の1.9%がパニック障害であった(森下ら:1994)
・不安障害の有病率の日中比較を行った結果、パニック障害患者は中国が日本よりも有意に多かった(黄・小野:2006)
・アメリカにおけるパニック障害の生涯有病率は4.7%であった(Kesslerら:2005)
・欧米におけるパニック障害の生涯有病率は3.5%~4.5%、パニック障害に至らないパニック発作の生涯経験率は約20%であった(Kesslerら:2006)
・日本の中高生でパニック発作様症状を経験した者は22.7%であった(股村ら:2014)
・7~14歳の子どものパニック障害の有病率は1.0%であった(Costello:1989)
・子どものパニック障害の有病率は0.8%であった(Bernstein:1991)
・子どものパニック障害の有病率は9.6%であった(Lastら:1992)

🍅以上の知見から、不安障害全体の生涯有病率は4.2%~28.8%の間、パニック障害の生涯有病率は1.0%~22.7%の間と、かなりの幅に及ぶことがわかりました。これは調査の都合の問題で、標本抽出の条件が研究ごとにバラバラなので、同じような結果が出にくいのだと思います。ある研究では受診患者を調査し、別の研究では地域住民を、また別の研究では中高生を、という状態では結果は異なって当然です。また、時代が現代に近づくにつれて有病率が増えていく可能性もあります(不安障害やパニック障害に対する認知度が高くなると受診する人が増えるから)。
🍅このような、有病率をめぐる疫学調査の限界をふまえた上で、パニック障害の生涯有病率の低い値を取って1.9%としても、100人に2人という割合はかなりの高率です。パニック障害患者は決してマイノリティとはいえないと思います。西村(2010)はパニック障害を「common disease」と呼んでいます。「ありふれた病気」という意味です。
🍅ちなみに、厚生労働省が公表している『患者調査』による推計患者数は以下のグラフのようになります。

H29患者調査



3.発症年齢に関する研究



🍅精神疾患に関して、その発症年齢を推定する調査研究を行うのは難しいです。特に、発症(初発)の年齢が若くなればなるほど正確でなくなる傾向があります。子どもは自分の症状を他者に正確に伝える能力を持たないですし、自分の症状が病気であるかどうかすらわかっていないことが多い(管理人自身がそうでした)からです。
🍅以下、田代(1992)、森下ら(1994)、石川・坂野(2004)、貝谷(2013)、上田(2019)による先行研究の整理や、自身らによる調査研究をまとめます。

・パニック障害の好発年齢は25~44歳である(Weissman:1988)
・日本の大学病院精神科の外来受診患者を調査した結果、パニック障害の初発年齢は20歳代から30歳代にかけてが最も多かった(森下ら:1994)
・パニック障害を伴わない広場恐怖症の平均発症年齢は21.1歳、パニック障害は30.3歳であった(Lijsterら:2017)
・成人の不安障害患者の80%以上が18歳以前に不安症状を発症していた(Labellarteら:1999;Paulsら:1995)

🍅以上の知見から、パニック障害の初発年齢の全体的傾向としては、20歳代前半から30歳代前半までが多いようです。
🍅(2021/7/13)貝谷(2008)は、不安障害の発症には「年代順に現象を変えて出現してくる」と述べています。すなわち、乳児期には「人見知り」として始まり、幼少期には「分離不安」や「過剰不安」、学童期には「特定の恐怖症」や「強迫性障害」、思春期には「社会不安障害」と「広場恐怖」、そして青年期には「広場恐怖を伴うパニック障害」として症状が完成されるとし、広場恐怖を伴うパニック障害は「不安障害の最終コース」であり、他の不安障害よりも重症化・慢性化するとともにうつ病を併発しやすく社会障害度が高いと指摘しています。管理人の経過とほとんど同じです!


4.性差(男女差)に関する研究



🍅以下、田代(1992)、浅見ら(2013)、松田ら(2013)が紹介した先行研究を整理します。


(1)発症年齢・好発年齢の性差
・パニック障害の発症年齢は女性のほうが男性よりも有意に早い(Reed & Wittchen:1998)
・パニック発作の好発年齢は男性15~24歳、女性35~44歳であった(Kesslerら:2006)


(2)各種不安障害・症状の性差
・パニック障害、PTSD、特定の恐怖症の有病率は女性のほうが男性よりも有意に高い(Breslauら:1999;Fredriksonら:1996;Kinrys & Wygant:2005)
・不安障害の有病率は女性のほうが男性よりも有意に高い(McGlynn & Metcalf:1989;Meyersら:1984)
・自然災害被災者のPTSD有病率は女性のほうが男性よりも有意に高い(Nygaard & Heir:2012;Piyasilら:2011)
・PTSDの治療期間は女性のほうが男性よりも有意に長い(Sciancalepore & Motta:2004;Seedatら:2005)
・行動療法実施後のPTSD再発率は男性のほうが女性よりも有意に高い(Felmingham & Bryant:2012)
・1995(平成7)年の阪神淡路大震災の被災者や、イラク、アフガニスタンに派兵された兵士のPTSDの有病率は性別に有意な差はなかった(Hogeら:2007;Vogtら:2011;坂野ら:1996;岡本ら:1998)
・慢性PTSD患者の睡眠障害の重症度は性別に有意な差はなかった(Germainら:2006)


(3)パニック障害の性差
・パニック障害発症率の男女比は女性が男性の2倍である(Weissman:1988)
・パニック発作の誘発テストの結果、恐怖感は女性のほうが男性よりも有意に高い(浅見ら:2013)
・パニック発作が生じる頻度は女性のほうが男性よりも有意に高い(Reed & Wittchen:1998)
・強迫性障害でパニック発作が生じる頻度は女性のほうが男性よりも有意に高い(Lensiら:1996)
・広場恐怖を伴うパニック障害患者の再発率は女性のほうが男性よりも有意に高い(Yonkersら:2003)
・パニック障害の有病率は男性1.7%、女性5.1%で女性が男性の3倍であった(貝谷ら:2002)

🍅以上の知見から、パニック障害の性差については女性のほうが発症しやすいといえそうです。


文献

浅見剛・小西潤・平安良雄(2013)「パニック障害における脳構造の変化」『不安障害研究』第4巻第1号、pp37-43.
石川信一・坂野雄二(2004)「児童期の不安障害に対する認知行動療法の展望」『行動療法研究』第30巻第2号、pp125-136.
貝谷久宣(2008)「不安障害は難治性うつ病の萌芽」『心身医学』第48巻第1号、p9.
貝谷久宣(2013)「不安障害研究鳥瞰―最近の知見と展望―」『不安障害研究』第4巻第1号、pp20-36.
川上憲人ら(2003-2006)「こころの健康についての疫学調査に関する研究」『平成16~18年度厚生労働科学研究費補助金(こころの健康科学研究事業)こころの健康についての疫学調査に関する研究総合研究報告書』.
川上憲人ら(2016)「精神疾患の有病率等に関する大規模疫学調査研究:世界精神保健日本調査セカンド」『厚生労働省厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業)(H25-精神-一般-006)国立研究開発法人日本医療研究開発機構障害者対策総合研究開発事業(精神障害分野)(15dk0310020h0003)』.
股村美里・小塩靖崇・北川裕子・福島昌子・米原裕美・西田淳志・東郷史治・佐々木司(2014)「中高生の子どものパニック発作と睡眠習慣に関する検討」『不安障害研究』第5巻第2号、pp102-109.
松田真悟・松澤大輔・清水栄司(2013)「恐怖の性差:疫学・画像・動物研究から」『不安障害研究』第5巻第1号、pp22-30.
森下茂・植田美穂子・山本博三・渡辺昌祐(1994)「Panic Disorder研究 第1報」『川崎医学会雑誌』第20巻第1号、pp19-21.
西村幸香(2010)「非侵襲脳計測を用いたパニック障害発症に関わるネットワークの解明」『科学研究費補助金研究成果報告書』平成22年5月10日現在.
黄菊坤・小野和哉(2006)「神経症性障害の病態の国際比較研究―日本と中国の比較文化精神医学の検討―」『東京慈恵会医科大学雑誌』第121号、pp207-221.
塩入俊樹(2010)「不安障害の病態について:Stress-induced Fear Circuity Disordersを中心に」『精神神経学雑誌』第112巻第8号、pp797-805.
田代信維(1992)「恐慌性(パニック)障害の診断と治療」『耳鼻と臨床』第38巻第6号、pp852-856.
上田紋佳(2019)「不安症とうつ病のcomorbidityに関する考察―多重経路モデルに着目して―」『岡山大学大学院教育学研究科研究集録』第172号、pp35-47.

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