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パニック障害の精神疾患内における位置づけ(DSM)

(2021/9/15)より分かりやすくするとともに文字数を減らしました。


🍅前のページ(パニック障害の精神疾患内における位置づけ(ICD))では、国際的な疾病分類であるICDを取り上げました。ここでは、アメリカの精神障害の診断基準であるDSMを取り上げます。くどいようですが、くれぐれも他者に対する勝手な診断は慎みましょう


1.DSMとは



(1)DSMとは
🍅DSMDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)とは、アメリカ精神医学会による精神障害の診断基準のことで「精神障害の診断と統計マニュアル」といいます。「Diagnostic」は診断、「Statistical」は統計、「Manual」はマニュアル、「Mental Disorders」は精神障害の意味で、その頭文字を取ってDSMといいます。なお、前のページで取り上げたICDはすべての疾患を分類したものですが、DSMは精神障害のみの診断基準になります。


(2)DSMの特徴
🍅DSMの特徴は、大きく2つに分けることができます。

①「操作的診断」システムを採用していること
・操作的とは、言葉の上では何のことやら分かりませんが、要はマニュアルにしたがって診断するということです。それぞれの精神障害ごとに症状リストをあらかじめ作っておいて、それを患者に示して、いくつあてはまるか(たとえば「2つ以上あてはまる場合は…」など)で診断を確定させる方法、これが操作的診断です。
・操作的診断のメリットは、どんな医師であっても平均的な結果が得られるので客観性に優れていることです。しかし、患者の個別性に対応できないというデメリットもあります(鷲見:2018)。

②「多軸診断」システムを採用していること
・多軸診断とは、単に精神障害の分類にしたがって診断を確定させるのではなくて、5つの軸から多面的に診断することをいいます。
・5つの軸とは、Ⅰ軸(精神障害の分類)、Ⅱ軸(知能とパーソナリティ)、Ⅲ軸(一般の身体疾患)、Ⅳ軸(心理社会的問題や環境的問題)、Ⅴ軸(機能の全体的評価)、の5つをいいます。
・ただし、最新のDSM-5ではこのシステムは採用されなくなりました。

🍅現在、DSMはアメリカ国内だけでなく、広く世界各国で精神障害の診断のためのツールとして用いられていて、ICDと並立しているばかりか、むしろICDの疾患分類の内容がDSMの影響を受けて類似したものになっています(純粋に影響を受けたのか、政治的な事情でWHOがアメリカにおもねったのかは不明)。


2.DSMの歴史



🍅以下、溝部・中込(2007)、大坪(2012)、塩入(2012;2018)による知見を整理します。


(1)精神分析学からの脱却
🍅DSMは、もともとはアメリカ国内で精神障害の統計を取るために作成されたものです。第二次世界大戦後しばらくまでは、アメリカに限らず、広く世界各国で神経症圏の精神疾患に対する医師の診断は客観性に乏しく、かなりのばらつきがあったらしいです。その理由は、当時の神経症に対する精神医学やその治療が精神分析学を採用していたからでした。客観的、合理的な科学とはいえない精神分析学が精神医学の主流だったがゆえに、精神科医療の質が問われていたということです。
🍅また、このことに関連して、DSMが発行されるようになったきっかけとして、精神医学の関心がそれまでの統合失調症双極性障害(この2つの精神疾患は歴史的に「二大精神病」と呼ばれてました)から神経症の領域に移り始めたことがあげられます。二大精神病に対しては科学的なアプローチが試みられてきましたが、神経症の領域は歴史的にもっぱら精神分析学の担当分野だったのです。DSMの歴史は、じつはこの精神分析学からの訣別のプロセスでもあります。

  👀なお、精神分析については以下のページで取り上げています。


(2)DSM-ⅠからDSM-5まで
🍅(2021/5/12)1951(昭和26)年にDSM-Ⅰが発行されました。DSM-Ⅰでは、精神障害を器質性脳症候群、機能性障害、精神遅滞の3つに分けています。このとき、神経症は機能性障害の中の「精神神経症反応」に分類されました。さらに、この精神神経症反応は恐怖反応不安反応解離反応転換変換反応強迫反応抑うつ反応他の精神神経症反応の7種類に分類されています(下参照)。

  DSM-Ⅰ
  第1章 器質性脳症候群
      ・急性脳症候群
      ・精神病性反応を伴う慢性脳症候群
  第2章 機能性障害
    ・精神病 
      ・精神分裂病性反応
      ・躁うつ病
      ・妄想反応     
    ・精神神経症反応
      ・恐怖反応
      ・不安反応
      ・解離反応
      ・転換(変換)反応
      ・強迫反応
      ・抑うつ反応
      ・他の精神神経症反応
    ・性格障害
    ・精神生理的障害
    ・特異的症状
    ・一過性状況性性格障害
  第3章 精神遅滞

🍅ところで、DSM-Ⅰの神経症の分類では「反応」という用語が使われています。この「反応」は、精神分析学が神経症の症状を表すときによく使われる用語です。つまり、DSM-Ⅰは精神分析学的な色彩が濃かったといえるでしょう。
🍅(2021/5/12)次いで、1968(昭和43)年にDSM-Ⅱが発行されました。DSM-Ⅱでは「反応」という用語が使われなくなったほか、精神障害の大分類が3個から10個に増え、さらに神経症の中身も分類し直されました。

  DSM-Ⅱ
  第1章 精神遅滞
  第2章 器質性急性脳症候群
  第3章 器質性慢性脳症候群
  第4章 精神病(精神分裂病・感情障害)  
  第5章 神経症
    1 不安神経症
    2 ヒステリー神経症
    3 恐怖神経症
    4 強迫神経症
    5 抑うつ神経症
    6 神経衰弱(神経)症
    7 離人神経症
    8 心気(神経)症
    9 その他の神経症
    10 特定不能の神経症
  第6章 性格障害
  第7章 精神生理的障害
  第8章 一過性状況性障害
  第9章 小児・思春期の行動障害
  第10章 精神科的症状を呈さない状態および不特定の状態

🍅(2021/5/12)次いで、1980(昭和55)年にDSM-Ⅲが発行されました。ここでは、先に述べた「操作的診断」と「多軸診断」のシステムが導入されると同時に、精神障害に至った原因を問わないという姿勢が明確に打ち出されました。このことは、その是非はともかくとしても、DSM-Ⅲ以降の神経症の診断に強烈なインパクトを与えました。そして、DSM-Ⅲでは「神経症」という疾病の分類は「不安障害」に変更されました。DSM-Ⅲでは不安障害は以下のように分類されています。

  DSM-Ⅲ
  第1章 通常、幼児期・小児期・思春期に発症する障害
  第2章 器質性精神障害
  第3章 物質常用障害
  第4章 精神分裂性障害
  第5章 妄想性障害
  第6章 他のどこにも分類されない精神病性障害
  第7章 感情障害
  第8章 不安障害
    ・恐怖性障害
      ・社会恐怖
      ・単一恐怖
      ・空間恐怖
        ・恐慌発作を伴わない空間恐怖
        ・恐慌発作を伴う空間恐怖
    ・不安状態
      ・恐慌性障害(注:これがパニック障害です)
      ・全般性不安障害
    ・強迫性障害
    ・心的外傷後ストレス障害
      ・急性
      ・慢性/遷延性
    ・非定型不安障害
  第9章 身体表現性障害
  第10章 解離性障害
  第11章 性心理障害
  第12章 虚偽性障害
  第13章 他のどこにも分類されない衝動制御の障害
  第14章 適応障害
  第15章 身体的病態に影響する心理的諸因子
  第16章 人格障害
  第17章 医学的関与または治療の対象となる状態
  ※DSM-Ⅲでは、今日のパニック障害(恐慌性障害)は不安状態に含まれている。

🍅(2021/5/12)DSM-Ⅲはその後、1987(昭和62)年にDSM-Ⅲ-R(RはRivisionの略で「修正版」という意味)という修正版が発行されています。DSM-Ⅲ-Rでは不安障害は以下のように分類されています。

  不安障害
    ・社会恐怖
    ・単一恐怖
    ・恐慌性障害の既往のない空間恐怖
    ・恐慌性障害
      ・空間恐怖を伴う恐慌性障害
      ・空間恐怖を伴わない恐慌性障害
    ・全般性不安障害
    ・強迫性障害
    ・心的外傷後ストレス障害
    ・特定不能の不安障害
※DSM-Ⅲ-Rでは、空間恐怖を伴う恐慌性障害 + 空間恐怖を伴わない恐慌性障害 = 恐慌性障害とされ、恐慌性障害が疾患として格上げされた一方、空間恐怖は一症状に格下げされた。

🍅さらに、1994(平成6)年にDSM-Ⅳが発行されました。2000(平成12)年にはDSM-Ⅳ-TR(TRはText Revisionの略で「改訂版」という意味)という、小さな改訂版が発行されています。
🍅そして、2013(平成25)年には最新のDSM-5が発行され、現在に至っています。

DSMのあゆみ


3.DSM-Ⅳ-TRによる精神障害の分類



🍅DSM-Ⅳ-TRにおける精神障害の分類は以下の通りです。これらのうち、パニック障害は「7 不安障害」の中に含まれています。

  DSM-Ⅳ-TR
  第1章 通常、幼児期、小児期または青年期に初めて診断される障害
  第2章 せん妄、痴呆、健忘性障害、および他の認知障害
  第3章 一般身体疾患による精神疾患
  第4章 物質関連障害
  第5章 統合失調症および他の精神病性障害
  第6章 気分障害
  第7章 不安障害
    ・パニック発作
    ・広場恐怖
    ・パニック障害(広場恐怖を伴わないもの・広場恐怖を伴うもの)
    ・パニック障害の既往歴のない広場恐怖
    ・特定の恐怖症
    ・社会恐怖(社会不安障害)
    ・強迫性障害
    ・外傷後ストレス障害
    ・急性ストレス障害
    ・全般性不安障害(小児の過剰不安障害を含む)
    ・一般身体疾患による不安障害
    ・物質誘発性不安障害
    ・特定不能の不安障害
  第8章 身体表現性障害
  第9章 虚偽性障害
  第10章 解離性障害
  第11章 性障害および性同一性障害
  第12章 摂食障害
  第13章 睡眠障害
  第14章 他のどこにも分類されない衝動制御の障害
  第15章 適応障害
  第16章 パーソナリティ障害
  第17章 臨床的関与の対象となることのある他の状態
※DSM-ⅣとⅣ-TRとでは、不安障害関連でカテゴリーの変更はほとんどない。
※「パニック発作」と「広場恐怖」については、これら自体は障害名としての項目ではなく、他の精神障害名に診断した上で、これら2つの症状を付け加えるための項目である。
※「パニック発作」と「広場恐怖」については、パニック障害だけで生じるものではなく、他の不安障害でも生じることがあるので独立した項目とされている。

🍅次に、パニック「発作」の定義をみます。

パニック発作:
強い恐怖または不快を感じるはっきり他と区別できる期間で、その時、以下の症状のうち4つ(またはそれ以上)が突然発現し、10分以内にその頂点に達する。

  1)動悸、心悸亢進、または心拍数の増加
  2)発汗
  3)身震い、または振戦
  4)息切れ感、または息苦しさ
  5)窒息感
  6)胸痛または胸部不快感
  7)嘔気または腹部不快感
  8)めまい感、ふらつく感じ、頭が軽くなる感じ、または気が遠くなる感じ
  9)現実感消失(現実でない感じ)または離人症状(自分自身から離れている)
  10)コントロールを失うことに対する恐怖、または気が狂うことに対する恐怖
  11)死ぬことに対する恐怖
  12)異常感覚(感覚麻痺またはうずき感)
  13)冷感または熱感

🍅次に、パニック「障害」の定義をみます。

パニック障害
A (1)と(2)の両方を満たす。
(1)予期しないパニック発作が繰り返し起こる。
(2)少なくとも1回の発作の後1か月間(またはそれ以上)、以下のうち1つ(またはそれ以上)が続いていたこと。
  a)もっと発作が起こるのではないかという心配の継続
  b)発作またはその結果が持つ意味(例:コントロールを失う、心臓発作を起こす、「気が狂う」)
  c)発作と関連した行動の変化
B 広場恐怖の有無(広場恐怖が存在すれば「300.21広場恐怖を伴うパニック障害」とし、広場恐怖が存在しなければ「300.01広場恐怖を伴わないパニック障害」とする)。
C パニック発作は物質(例:乱用薬物、投薬)または身体疾患(例:甲状腺機能亢進症)の直接的な生理学的作用によるものではない。
D パニック発作は、以下のような他の精神疾患ではうまく説明されない。例えば、社会恐怖(例:恐れている社会的状況に曝露されて生じる)、特定の恐怖症(例:特定の恐怖状況に曝露されて)、強迫性障害(例:汚染に対する強迫観念のある人がごみに曝露されて)、外傷後ストレス障害(例:強いストレス因子と関連した刺激に反応して)、または分離不安障害(例:家を離れたり、または身近な家族から離れたりした時)。

🍅次に、広場恐怖の定義をみます。

広場恐怖
A パニック発作またはパニック様症状が予期しないで、または状況に誘発されて起きたときに、逃げることが困難であるかもしれない(または恥ずかしくなってしまうかもしれない)場所、または助けが得られない場所にいることについての不安、広場恐怖が生じやすい典型的な状況には、家の外に一人でいること、混雑の中にいることまたは列に並んでいること、橋の上にいること、バス、汽車、または自動車で移動していることなどがある。
B その状況が回避されている(例:旅行が制限されている)か、またはそうしなくても、パニック発作またはパニック様症状が起こることを、非常に強い苦痛または不安を伴い、耐え忍んでいるか、または同伴者を伴う必要がある。
C その不安または恐怖性の回避は、以下のような他の精神疾患ではうまく説明されない。例えば、社会恐怖(例:恥ずかしさに対する恐怖のために社会的状況のみを避ける)、特定の恐怖症(例:エレベーターのような単一の状況のみを避ける)、強迫性障害(例:汚染に対する強迫観念のある人がごみに曝露されて)、外傷後ストレス障害(例:強いストレス因子と関連した刺激に反応して)、または分離不安障害(例:家を離れること、または身近の家族から離れることを避ける)。


4.DSM-5の概要とその内容



DSM5.jpg



(1)「~障害」を「~症」に変更
🍅最新のDSM-5では、さまざまな精神障害の診断分類の組み換えや抜本的な見直しが行われました。そして、障害名の日本語訳をめぐっては児童青年期の障害と不安障害関係について「~障害」という名称が「~症」に変更されることになりました。翻訳した日本精神神経学会(2014)によると、病名を「障害」としてしまうと患者・当事者がショックを受けるから、とのことです。ただし、これまでの障害名に臨床家が既に馴染んでいることを考慮して「~症(~障害)」のように併記することで決着がついたようです。したがって、パニック障害は「パニック症(パニック障害)」、不安障害は「不安症(不安障害)」のような表記となります。


(2)多軸診断の廃止とディメンショナル評価の導入
🍅また、DSM-5では多軸診断が廃止され、それに代わってディメンショナルDimensional)評価なるものが導入されました。ディメンショナルという単語は、訳し方が難しいです。
🍅石坂(2016)は、DSM-5におけるディメンショナルの意味には以下の2つがあると述べています。

①「軽度から重度まで」という意味
・DSM-Ⅳまでは重症度が異なると障害名が変わっていたものを、軽度から重度までの軸を設け、できるだけひとまとめにしようとしたことです。

②DSM-Ⅳまでは別々のものとされていた障害名をひとまとめにするという意味
・たとえば、抑うつ気分や不安は、両方ともSSRI(抗うつ薬の一種)の効果が認められるので障害の分類としては接近している、と考えるようなものです。

🍅また、鷲見(2018)はディメンショナルを「次元的」と訳しています。すなわち、ある症状を一つの次元と捉え、その症状の程度を評価することと、詳細なタイプ分けをやめてその時々の状態を評価すること(精神障害の症状は年齢とともに変わりうる)、そしてその時点での生活上の困難さの評価(その時点で生活上の困難がなければ診断する必要はない)という3つの意味があるとしています。
🍅このディメンショナル評価という方法が採用されたのは、多くの精神障害には合併症(併存症)が多く、また、あらかじめ存在する分類(カテゴリー)にはあてはまらない症状を持つ患者が数多く存在するという精神障害の特質をなんとか客観的にまとめたいという意図によるものです。たしかに、管理人を含むパニック障害患者の多くは広場恐怖や抑うつを合併していますが、その症状の現れ方や持続時間、特性は個別性が極めて高く、「どこからどこまでがこの症状」という線引きが難しいのだと思います。しかし結果として、DSM-5ではディメンショナル評価を採用したものの障害の種類や数は減らず、その試みは不徹底に終わっています。


(3)広場恐怖がパニック症から分離された
🍅さて、DSM-5では広場恐怖がパニック症から分離されて広場恐怖症として独立した診断カテゴリーとなりました。これは貝谷ら(2014)によると、パニック症状のない広場恐怖が相当数確認されていることや、パニック症、広場恐怖を伴うパニック症、広場恐怖症の3つはそれぞれ異なる経過を辿ることなどが理由のようです。
🍅その他、強迫性障害が不安障害から独立したこと、PTSDや急性ストレス障害、適応障害が不安障害から独立したこと、これまで小児期の障害に分類されていた分離不安症が不安障害の下位分類に含まれたことなど、不安障害の範囲が変更されています。


(4)DSM-5の分類
🍅DSM-5における精神障害の分類は以下の通りです。これらのうち、パニック障害は「5 不安障害群」の中に含まれています。

  DSM-5
  第1章 神経発達症群/神経発達障害群
  第2章 統合失調症スペクトラム障害および他の精神病性障害群
  第3章 双極性障害および関連障害群
  第4章 抑うつ障害群
  第5章 不安症群/不安障害群
    ・分離不安症/分離不安障害
    ・選択性緘黙
    ・限局性恐怖症
    ・社交不安症/社交不安障害(社交恐怖)
    ・パニック症/パニック障害
    ・パニック発作特定用語
    ・広場恐怖症
    ・全般性不安症/全般性不安障害
    ・物質・医薬品誘発性不安症/物質・医薬品誘発性不安障害
    ・他の医学的疾患による不安症/他の医学的疾患による不安障害
    ・他の特定される不安症/他の特定される不安障害
    ・特定不能の不安症/特定不能の不安障害  
  第6章 強迫症および関連症群/強迫性障害および関連障害群
  第7章 心的外傷およびストレス因関連障害群
  第8章 解離症群/解離性障害群
  第9章 身体症状症および関連症群
  第10章 食行動障害および摂食障害群
  第11章 排泄症群
  第12章 睡眠―覚醒障害群
  第13章 性機能不全群
  第14章 性別違和
  第15章 秩序破壊的・衝動制御・素行症群
  第16章 物質関連障害および嗜癖性障害群
  第17章 神経認知障害群
  第18章 パーソナリティ障害群
  第19章 パラフィリア障害群


5.DSMの問題点



🍅田巻ら(2015)、石丸(2016)、石坂(2016)は、DSMという診断システム全体に対して以下のように批判しています。

①「原因を問わない」とは表向きの宣言である
・DSM-Ⅲ以降は「精神障害の原因を問わない」と謳っているが、診断分類を見ると原因を問うてしまっている(たとえばPTSDなど)。

②DSMによって患者が増え、抗うつ薬市場も拡大した
・DSMの診断分類によって診断名が著しく増加し、それに伴って患者が激増した。また、この動きに連動して抗うつ薬の市場規模が約5倍に膨らんだ。

③確実でない診断方法を簡単に採用する
・DSM-Ⅲ以降、多軸診断法が鳴り物入りで導入されたが、DSM-5ではあっさり捨てられた。つまり、確実でない方法を簡単に採用しては切り捨てている。

④即席の診断でよいのか
・診断分類を示すことによって短時間の診察で診断が可能になったが、それでいいのか?
・マニュアル志向は臨床医のスキルを低下させる危険がある。

🍅診断基準がコロコロ変わる不安定なDSMのせいで、最も割を喰ったのが自閉症関係の診断基準です。
🍅DSM-5では「広汎性発達障害」や「アスペルガー症候群」があっさり消去され、「自閉スペクトラム症」(スペクトラムとは「連続体」という意味)とされました。鷲見(2018)によると、自閉的な特徴は軽症から重症まであり、さらに健康に近いものから遠いものまで連続的に分布していることから「連続体」として理解するとの意図があるようです。これもDSMの悪いクセで、仮説段階のものをいとも簡単に診断基準にしてしまうんです。
🍅DSM-5が発表される前には「広汎性発達障害とは何か」や「アスペルガー症候群とは何か」という研究がたくさん行われましたが、DSM-5が発表されるとこうした研究は全く意味がなくなってしまいました。ちなみに、吉田ら(2019)はDSMによって発達障害と診断される数が日本国内で激増していると指摘しています。
🍅そもそもDSMはアメリカの診断基準であって、日本の精神科医はこれを参考にすることはあっても、これに従う必要は一切ないんです。その分類はおかしい、臨床上の傾向と異なる、その他疑問があれば従わなければよいだけのことなんですよね。


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🍅(2021/5/12)DSMは改訂されるごとに多軸診断やスペクトラム概念、ディメンショナル評価など、新しい診断基準や方法を花火のようにポンポン打ち上げる傾向にあります。それは変化への志向という意味では評価できるのですが、どれも臨床現場ではうまくいかず、既存のやり方、すなわち一定のカテゴリーにしたがって診断するほうがよっぽど堅実である(カテゴリーにあてはまらない場合も「あてはまらない」と割り切る)というところに落ち着くようです。
🍅私たち患者や当事者の立場からすれば、障害の範囲や診断基準がコロコロ変わり、あるいは仮説段階や試行段階のものを次々と採用しがちなDSMには振り回されてはならないと考えます。


文献

American Psychiatric Association編、高橋三郎・大野裕・染矢俊幸訳(2004)『DSM-4-TR精神疾患の診断・統計マニュアル 新訂版』医学書院。
日本精神神経学会精神科病名検討連絡会(2014)「DSM-5病名・用語翻訳ガイドライン(初版)」『精神神経学雑誌』第116巻第6号、pp429-457.
石丸昌彦(2016)「うつ病増加の背景要因に関する覚書」『放送大学研究年報』第34号、pp1-13.
石坂好樹(2016)「DSM-5拾い読み―子どもの精神障害を中心として―」『児童青年精神医学とその近接領域』第57巻第1号、pp205-218.
貝谷久宣・兼子唯・巣山晴菜・横山知加・土田英人(2014)「不安症の主要変更事項―“広場恐怖症の独立”について―」『臨床精神医学』第43巻増刊号、pp96-106.
上島国利(1997)「パニックディスオーダー」『日本臨牀麻酔学会誌』第17巻第2号、pp95-102.
久保木富房(2011)「パニック障害―やさしい不安対策―」『心身医学』第51巻第8号、pp731-736.
溝部宏二・中込和幸(2007)「神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害(摂食障害を含む)の疾患の概念と病態の理解」『精神神経学雑誌』第109巻第12号、pp1157-1164.
大坪天平(2012)「全般性不安障害の現在とこれから」『精神神経学雑誌』第114巻第9号、pp1049-1055.
尾崎紀夫(2018)「『診断』という『線』を引くこと」『精神医学』第60巻第1号、pp7-8.
塩入俊樹(2012)「不安障害の現在とこれから―DSM-5改訂に向けての展望と課題:パニック障害―」『精神神経学雑誌』第114巻第9号、1037-1048.
塩入俊樹・武藤恭昌・加藤圭悟・杉山俊介(2016)「不安症群の変遷:DSM-ⅠからDSM-5まで」『医療心理懇話会』第1回集会抄録集、頁番号なし。
塩入俊樹(2018)「DSM診断基準における不安症の変遷―半世紀の流れの中で―」『不安症研究』第10巻第1号、pp10-19.
田巻義孝・堀田千絵・加藤美朗(2015)「精神障害の診断と統計マニュアル(DSM)の改訂について」『関西福祉科学大学紀要』第19号、pp37-58.
鷲見聡(2018)「発達障害の新しい診断分類について~非専門医も知っておきたいDSM-5の要点~」『明日の臨床』第30巻第1号、pp1-6.
吉田耕平・佐藤文哉・土屋敦・上野加代子(2019)「子どもの問題行動への視角の変遷と医療化プロセスの検証―1960年代から2010年代の医学文献の検討から―」『徳島大学地域科学研究』第9巻、pp23-47.

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