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パニック障害の認知行動療法①

🍅ここでは、心理療法のうち、認知行動療法の要点を整理したいと思います。パニック障害の治療には抗不安薬と抗うつ薬を用いた薬物療法が用いられますが、薬物療法だけではパニック発作を抑えることはできても、広場恐怖とそれに関するネガティブな記憶を消去することはできず、認知行動療法との併用がよいとされているようです。


1.認知行動療法の定義と特徴



🍅以下、前田(1993)、岩舘・貝谷(1996)、岩本(1996)、神谷(1999)、陳ら(2000)、中田ら(2001)、金(2006)、杉原(2009)、原井(2011)、大橋・今野(2013)、黒沢・高塩(2014)、野口(2014)、塚野(2015)、岩崎(2017)、鈴木(2018)、高木・若島(2019)による知見を整理します。
🍅以下、認知行動療法とそれに関連する認知・行動系の心理療法の定義と特徴を整理してみます。

  👀なお、認知行動療法については以下のページでも取り上げています。


(1)行動療法(behavioral therapy)
🍅行動療法とは、行動理論や学習理論に基づいて患者の「行動」に着目し、その不適切な行動を変えようとする心理療法の一技法のことをいいます。
🍅行動療法では、まず、人間の行動の大部分は学習によって得られたものであると考えます。そして、患者が抱えている問題は誤って学習された不適切な行動であるとみなして、誤って学習された不適切な行動をよりよい行動に修正したり、望ましい行動を新たに学習したりすることによって問題を解決させようとします。
🍅行動療法という名称は、1960年(1959年とする文献もある)にドイツの心理学者アイゼンクH.J.Eysenck)が初めて用いたとされています。ただし、行動療法には、そのもととなる行動理論の内容によって、そのはじまりについて2つの見方があります。一つ目は、古典的条件付け理論を用いたアイゼンクによるもの、二つ目は、オペラント条件付け理論を用いたアメリカの心理学者スキナーB.F. Skinner)らによるもの、です。


(2)曝露療法(exposure therapy)
🍅エクスポージャーexposure)とは、「さらす」という意味です。曝露療法はいま現在も認知行動療法で用いられている中心的な技法ですので、以下、要点を丁寧におさえておきます。
🍅曝露療法とは行動療法の一技法で、患者が不安や恐怖によって避けている場面にあえて身をさらすこと(=曝露)をいいます。曝露によって、患者がその場面に慣れたり、その場面に対する不安や恐怖という反応の不合理さに気づいたりすることを狙っていて、その結果、回避行動を克服しようとするものです。
🍅人間は、不安や恐怖を引き起こす場面にさらされたとしても、時間が経過するにつれて不安や恐怖が減少すること、逆に、その場面を回避すればするほど不安や恐怖が維持されるという客観的データがあって、これが曝露療法の根拠となっています。
🍅曝露療法の起源は、1958年にアメリカの精神科医ウォルピJ.Wolpe)がはじめた系統的脱感作法(リラクゼーション法を用いて恐怖場面に対して徐々に身体を慣らしていく方法)であるとされています。
🍅曝露療法の内容は、大まかには2種類(イメージ曝露、現実曝露)あります。

  ①イメージ曝露
  ・不安や恐怖を引き起こす場面をできるだけ具体的、鮮明にイメージすること。
  ・イメージすることによって徐々に不安や恐怖の反応を減らそうとする。

  ②現実曝露
  ・イメージではなく実際の場面に患者の身をさらすこと。
  ・段階を経て徐々に慣れていくことができるよう慎重かつ計画的に行う。

🍅これらのうち、現実曝露では、たとえば、患者は実際にパニック発作や過呼吸などの発作を意図的に経験するため、患者の自主性や自発性が効果の成否を大きく左右します。この患者の了解と準備がなければ、患者は単に苦痛を増すだけになり、症状が逆に悪化することもありうるので注意が必要です。
🍅現実曝露の中に、反応妨害エクスポージャー法曝露反応妨害法:exposure and response prevention)と呼ばれる技法があります。これは、患者が不安や恐怖を生じる場面で、患者に誤った反応をさせないようにしながら(反応妨害という)それに直面させることです。たとえば、広場恐怖を伴うパニック障害では薬を持たずに刺激場面に出てみるとか、手洗い強迫では手を洗いたくなっても洗わない、といったことです。患者がこれまでに行ってきた反応をしなくても実際は大丈夫だったじゃないかということを経験的に学び、患者の身体で「実証」します。
🍅なお、パニック障害の場合、患者は多かれ少なかれ安全行動または安全保障行動safety behavior)と呼ばれる誤った反応を持っています。管理人の場合は、薬を持ち歩いているほか、発作がひどくなるとベルトを緩める(もちろん、大衆の前では隠れて、ですが)、必要以上に鼻を触る、などの安全行動の癖がついています。


(3)認知療法
🍅認知療法とは、患者の誤った考えや解釈の修正を図ることをめざす心理療法の一技法のことをいいます。のちに行動療法と併用することによって認知行動療法として広く普及することになります。
🍅認知療法は、精神分析療法家だったベックA.T. Beck)が1960年代に提唱したとされています。

  👀なお、ベックについては以下のページでも取り上げています。

🍅認知療法は、当初は気分障害患者を対象としたものでした。それは、気分障害患者の多くが出来事を悲観的に捉えがちであることや、ほんの限られた経験を全ての出来事に適用してしまう「過度の一般化」がみられること、「全か無か思考」がみられること、「~せねばならない、~すべきである」という信念にとらわれていること、などの認知の歪みが観察されたからです。これらはのちにもう一度取り上げます。
🍅こうした認知の歪みはパニック障害患者にもよくみられることが明らかになり、パニック障害の場合は行動の修正も必要になることから、現在では認知行動療法としてパニック障害にも適用されるようになっています。


(4)認知行動療法CBTcognitive behavior therapy)
🍅認知行動療法とは、患者の認知と行動に焦点を当て、認知の偏りを修正するとともにそれに伴う行動の変容を図ることをめざす心理療法の一技法のことをいいます。
🍅一般には、先に述べた行動療法と認知療法を組み合わせたものと理解することができますが、それぞれの技法は理論的背景が異なるため(行動療法は行動理論と学習理論、認知療法は認知理論)、両者を含めた「総称」と位置付けるのが適切といえるでしょう。
🍅認知行動療法の目的ははっきりしていて、問題行動の元となる思考や認知を変えることと、その結果として生じる行動を変えることです。
🍅パニック障害の場合、予期不安やパニック発作を生じさせる考え方や感じ方を変化させます。ただしこのとき、不安や恐怖を消し去ることを目的とはしません。不安や恐怖は人間が生存していくために必要なものであって、それを消し去ることは適切とはいえません。すなわち、パニック障害では、不安や恐怖を過剰に捉えてしまう、あるいは身体症状を過大視してしまうという「歪んだ認知」を適切なレベルに修正することを狙います。認知行動療法では、まずこの「歪んだ認知」について冷静に学び(=心理教育)、その次に行動を変える訓練を行います。このように、認知行動療法は「考え方を変えることによって行動が変わる」という事実を患者自身が十分に感じ取ることを重視します。
🍅臨床心理学では、1980年代後半頃から、精神分析療法のように治療者の勘や熟練に頼った非科学的な治療技法ではなくて、科学的な根拠や実証(=エビデンス)に基づいた治療技法を用いるべきであるという「実証に基づくアプローチevidence based approach)」が重視されるようになりました。認知行動療法は効果測定を行いやすく、実証性が高いという評判から、日本を含む世界各国で採用されるようになりました。ただし、今になってそれらの効果を再分析したところ、それほどの効果を示していない(他の心理療法の効果とそれほど変わりがない)という研究が近年は多いです。


(5)行動療法・認知療法・認知行動療法の特徴
🍅これまでにあげた行動療法、認知療法、そして認知行動療法の特徴をあげてみます。

  ①過去の生育歴を重視しない
  ・生育歴自体は変えようがないことから、これを重視しない。
  ・現在の問題行動や考え方の修正、変容を図ることから、過去を重視しない。
  🌟ただし、これは精神分析療法を批判するための理屈と考えることもできる。
    →通常の臨床場面では過去の生育歴を聴取する。

  ②観察できないものは対象としない
  ・精神分析療法が対象とする無意識や潜在意識のようなものを重視しない。
  ・客観的に観察可能な感情や行動を治療の対象とし、それらの変化を継続的に測定する。

  ③治療目標を明確に定める
  ・「人生の豊かさ」や「気持ちが晴れる」などの曖昧な治療目標は設定しない。
  ・測定可能で具体的な治療目標を設定する。

  ④学習理論と認知理論を用いる
  ・誤った解釈、学習をすると不適切な行動が生じると考える。
  ・治療では、誤った解釈や学習の修正によって、正しい行動を身に付けることをめざす。

  ⑤問題となる症状を具体的に表現する
  ・症状を抽象的な概念で捉えるのではなく、できるだけ明確に表現する。
    →どのような場所で、どう考え、どのようなイメージを持ち、どう感じ、どのように行動するのか。

  ⑥日常的な場面を積極的に活用する
  ・治療は面接室だけでなく、日常的な生活場面を積極的に活用し、その適応を図る。
  ・また、このとき、治療家以外の非専門職にも積極的に協力してもらう。

  ⑦治療に用いる理論や原則の出自にこだわらない
  ・具体的、合理的なものであれば、治療に活用できる理論や原理、原則は積極的に用いる。

  ⑧行動のセルフ・コントロールをめざす
  ・自分の行動をコントロールできるという感覚を獲得することを目指す。
    →特に「できる」という感覚(≒自己効力感)を獲得できるようになることを目指す。

  ⑨心理教育を重視する
  ・プロセスの中に心理教育を設け、患者が自己管理することによって再発の予防を図る。


2.認知行動療法を支える理論



🍅認知行動療法を支える理論には、行動理論(学習理論)と認知理論があります。これらの理論は、概ね1950年代から1970年代までに確立されたもので、いずれも、もともとは臨床心理学とは関係のない純粋な心理学理論の一つで、のちに精神科臨床場面で応用されるようになったという経緯があります。
🍅ここでは、行動理論(学習理論)と認知理論の要点を整理しておきます。


(1)行動理論(学習理論)
🍅認知行動療法を支える行動理論では、人間の行動は外の刺激stimulation)に対して人間が反応response)すると考えます(S-R理論という)。この刺激―反応を数多く「経験」していくことによって、人間はいろんな複雑な行動を身につけます。この「経験」は後天的なもので、反復的な経験によって行動は身につきます。これを学習learning)といいます。ただし、このS-R理論はのちに人間の主体性や能動性を無視していると批判されて修正されます。
🍅さて、S-R理論の主なものに「条件付け」と呼ばれるものがあります。条件付けには、①レスポンデント条件付け(古典的条件付け)と②オペラント条件付け(道具的条件付け)の2つがあります。条件付けについては既に別ページで取り上げましたので、そちらをご覧下さい。

  👀条件付け理論については以下のページで取り上げています。

🍅これらの行動理論(学習理論)からみると、パニック障害で現れる予期不安とパニック発作、特定場面の回避といった症状は「誤った学習」によって生じた刺激―反応であると捉えることができます。そして、こうした誤った学習によって生じた刺激―反応(つまり行動)は、修正したり、再学習したりするなどして克服することができると考えます(実際は難しいことも多いですが…)。


(2)認知理論
🍅認知cognition)という言葉は、特にネガティブな意味を持っているわけではありません。かつての「痴呆症」のことを現在では「認知症」と呼ぶことになっているため、認知という単語を病気や症状の意味であると誤解している人がいますが、全く違います。認知とは、人間が感覚器官(目や耳など)によって自分の周りで起きていることを捉え、その情報が神経系を伝わって脳に届き、脳がその情報を吟味、解釈するという一連のプロセスのことをいいます。
🍅私たちは自分の周りのことを常に「認知」しながら生活しています。通常、この認知は特に意識することなく自動的に行っていて、かつ、その場その場に適応するように行っています。しかし、この認知は必ずしも正しいとは限りません。自動車の運転中に周囲の状況の認知に誤りが生じると(たとえば正面からやってくる車のスピードを判断し損なうなど)交通事故を起こしますし、対人関係で相手の態度や言葉の抑揚などの認知に失敗すると対人関係に亀裂が入ることもあります。パニック障害を含む精神疾患や一部の発達障害では、この認知に問題があることが多いとされています。
🍅精神科領域でこの認知理論を応用して治療を行おうとした最初の人は、さきにも登場したアメリカの精神科医ベックA.T. Beck)で、1960年代のことです。
🍅ベックは、はじめ精神分析医として精神分析の訓練を受けました。1950年代のことです。しかし、彼は精神分析学では気分障害患者の症状を的確に説明できないことから、精神分析学の効果や非科学性に幻滅するようになります。また、ベック自身も心気症や恐怖症を患っていました。こうした体験から、精神分析学のフロイトと同じく、自分の神経症体験を自己分析することによって、認知という観点からいくつかの仮説を見いだしています。
🍅ベックは、気分障害患者には共通して「認知の歪み」がみられることを発見しました。この認知の歪みの内容について、彼は「体系的な推論に誤りがある」と述べています。具体的には、以下のようなものです。

  ①恣意的(しいてき)推論(根拠がないのにすぐにネガティブな結論を出す)
  ②選択的注目(広い事実よりもごく一部のネガティブなことだけに注目してしまう)
  ③過度の一般化(ほんの少しの体験から全てがダメだと結論づける)
  ④拡大解釈と過小評価(現象を誇張または軽視する。動悸=心疾患、息切れ=呼吸困難、など)
  ⑤個人化(自分のせいではない出来事を全て自分のせいにしてしまう)
  ⑥完全主義・全か無か思考(0か1、白と黒以外は認められない)
  ⑦「ああすべき」「こうすべき」思考(望ましさの水準が高い)
  ⑧自己成就的予言(自分でうまくいかないと予測して自分の行動を制限し、それにより予測通り失敗する)
  ⑨不公平な比較(自分よりも上位の人と比較し、自分が劣っていると思ってしまう)

🍅ベックは、こうした認知の歪みを生じさせるのは、自動思考automatic thoughts)とスキーマschema)であると考えました。
🍅まず自動思考から。多くの気分障害患者は、自分の周りで生じた出来事に対して、自動的に浮かんでくる考え(自動思考)に支配されています。要は、ゆっくり時間をかけて考えるのではなくて、瞬間的にネガティブな結論を出すという思考の仕方のことです。
🍅次にスキーマ。スキーマとは「枠組み」という意味です。自動思考はたいていはネガティブな方向に著しく偏っていて、その背景には、幼少期から形成された思いや価値観などの強固な枠組み(抑うつスキーマ)が関係しています。気分障害の場合、患者の抑うつスキーマという強固なクセが自動思考を生み、自動思考が認知の歪みを引き起こし、その反応として感情の障害が現れると考えます。
🍅なので、ベックの認知の歪み理論では、気分障害の症状の本質的なところは感情の障害ではなく認知の障害であると考えます。そこで、認知療法では、患者が自分自身の体系的な推論の誤りに気づくとともに(注:患者は自覚していないことが多い)、認知の歪みを修正することによって感情や行動の改善に繋げることを狙います。
🍅具体的には、患者は認知の歪みによる悪循環にハマっていることが多いので、まず、患者が抱えている悪循環の構造を治療家とともに整理します。次に、この悪循環を解消するために認知の修正(特にネガティブ思考の修正)を図るとともに、適応的な行動への修正を図ります。これらのプロセスで大事なのは、患者が自分の力で悪循環から脱出すると感じることです。この「できる」という感覚(自己効力感)やセルフヘルプ力を持つことが自信に繋がり、ポジティブ思考を維持することができるといわれています。


文献

陳峻霎・貝谷久宣・坂野雄二(2000)「広場恐怖を伴うパニック障害患者を対象としたエクスポージャーに及ぼす患者教育の効果」『行動療法研究』第26巻第2号、pp57-68.
原井宏明(2011)「不安障害の認知/行動療法」『心身医学』第51巻第12号、pp1071-1078.
岩舘憲幸・貝谷久宣(1996)「パニック障害の行動療法事例について―自律訓練法と曝露療法の併用―」『東海女子短期大学紀要』第22号、pp109-121.
岩本隆茂(1996)「行動心理学と認知心理学 (VI)―行動心理学による心理療法理論と認知行動療法―」『北海道大學文學部紀要』第44巻第3号、pp143-174.
岩崎久志(2017)「心理療法の共通要因に関する一考察―現象学の視点から―」『流通科学大学論集―人間・社会・自然編』第30巻第1号、pp25-40.
神谷栄治(1999)「精神分析的心理療法の立場からみた行動療法の特質と意義―治療関係における比較―」『椙山女学園大学研究論集』(人文科学篇)第30号、pp173-183.
金美伶(2006)「不安障害の診断及び不安の心理療法」『お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター紀要』第3号、pp123-130.
黒沢顕三・高塩理(2014)「認知行動療法」『昭和学士会誌』第74巻第6号、pp641-653.
前田基成(1993)「恐怖症の心理治療における認知行動療法の効果」「長野大学紀要」第14巻第4号、pp354-359.
中田行重・金田鈴江・下川昭夫・瀬戸正弘・村山正治(2001)「臨床心理学における人間観」『総合人間科学』(東亜大学)第1巻第1号、pp47-54.
野口恭子(2014)「吐き気恐怖に対する認知行動療法」『東京家政大学附属臨床相談センター紀要』第14巻、pp29-37.
大橋智樹・今野舞(2013)「認知行動療法の効果は予測できるか」『宮城学院女子大学発達科学研究』第13号、pp47-53.
杉原保史(2009)「不安を乗り越えるための2つのアプローチ : エクスポージャーと『手放すこと』」『京都大学カウンセリングセンター紀要』第38号、pp41-48.
鈴木菜実子(2018)「精神分析からみた認知行動療法」『発達心理臨床研究』(兵庫教育大学)第24巻、pp75-86.
高木源・若島孔文(2019)「心理療法の鍵概念が精神的健康に及ぼす影響」『東北大学大学院教育学研究科研究年報』第68巻第1号、pp189-204.
塚野弘明(2015)「認知行動療法の理論と基本モデル」『岩手大学教育学部附属教育実践総合センター研究紀要』第14号、pp451-459.

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