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パニック障害と病前性格との関連

1.疾患と性格



🍅精神疾患に限らず、病気と患者の性格との関係については従来から専門家が関心を寄せてきました。たとえば、河野(1987)はタイプA行動パターンをあげています。
🍅タイプA行動パターンとは昔の日本の「仕事人間」によくみられた性格傾向で、競争心が強く、成功に向かって邁進し、昇進を熱望し、時間に追われるといった過剰適応のタイプのことです。こうした性格は、心臓疾患や心身症などの発症にかかわる重大な病前性格とされています。
🍅また、管理人は顎関節症を持っているのですが、和気・小見山(2012)は先行研究から、顎関節症患者が持つ病前性格として神経症傾向感情抑制型(喜怒哀楽を表に出さず控え目、ストレス発散が苦手、など)、情緒不安定傾向をあげています。
🍅こうした病前性格を検討する意義は、その診断だけでなくて、患者自身が自分の性格傾向を知っておくことによって病気になるリスクを低くするなど、発症予防や早期発見・早期治療に活用できることです。坂元(2005)は、精神疾患は人格を舞台とした病像を持つがゆえに患者の性格の理解を抜きにした精神科臨床はあり得ないと述べ、病前性格を検討する重要性を指摘しています。
🍅性格の研究についてはさまざまな理論家がその分類や測定を試みてきましたが、性格には以下の2つのアプローチがあるということを知っておいて下さい。

①類型論
・性格を比較的少ない類型に分類する方法。
・血液型による性格分類や体型による性格分類など。
・質的な把握が前提。
・メリットは、容易に把握できること。
・デメリットは、中間型や混合型を無視しやすいことや、量的に把握できないこと(程度を把握できない)、など。

②特性論
・性格を比較的多数の要素に分けて、それら全体を量的に測定してどの部分が強いか弱いかという組み合わせで把握する方法(折れ線グラフやレーダーチャートで示すことが多い)。
・メリットは、客観性があること。
・デメリットは、複雑であること、量的な把握を行うので極端なもの(ユニークさ)が排除されること、など。

🍅現在、研究でよく用いられているものは5因子モデルと呼ばれるもので、これらは特性論的に捉える方法の一つです。これは、以下の5つ(N・E・O・A・C)の側面からどの傾向が強いか弱いかを測定するものです。

  N 神経症傾向または情緒不安定性(不安・怒りと敵意・抑うつ・自意識・衝動性・傷つきやすさ)
  E 外向性(暖かさ・群居性・主張性・活動性・興奮追求・快感情)
  O 開放性(幻想・美・感情・活動・観念・価値(への開放性))
  A 協調性(信頼性・正直さ・愛他・服従・謙虚さ・やさしさ)
  C 勤勉誠実性(実行力・秩序・義務感・達成への努力・自制心・熟慮)


2.精神疾患と性格との関係



(1)精神疾患における性格の位置づけ
🍅さて、精神疾患に対して患者の性格がどのように影響しているのかについては、単に「病前性格があったから発症した」という考え方だけでなく、さまざまな仮説が提示されています。たとえば坂元(2005)は先行研究から、気分障害と性格との関係について以下の5つの考え方を示しています。

①素因としての性格(病前性格が気分障害発症の原因の一つである)
②症状や経過、予後に影響を与えるものとしての性格(気分障害発症後であっても性格がその症状に影響しうる)
③合併症としての性格(気分障害の結果、特定の性格変化が生じるかもしれない)
④軽症型としての性格(以前は性格と考えられていたものが、気分障害の軽症例であるかもしれない)
⑤無関係なものとしての性格(気分障害とは全く関係のない性格特性もありうる)

🍅このように、精神疾患と性格との関係をめぐってはさまざまな捉え方をすることができます。


(2)気分障害におけるメランコリー親和型性格と執着気質
🍅精神疾患と性格との関係について、第二次世界大戦前後以来、日本で長い間受け継がれてきた病前性格の考え方が気分障害における「メランコリー親和型性格」と「執着気質」です。
🍅メランコリー親和型性格」とは、ドイツのテレンバッハH.Tellenbach)が提唱した性格で、廣島・笠井(2013)によると、その内容は秩序への志向性几帳面自他に対する要求水準の高さ堅実勤勉強い責任感律儀他者への気遣いといったものです。
🍅執着気質」とは、下田光造が提唱した性格で、先に挙げたタイプA行動パターンと似ていて、几帳面仕事熱心凝り性正義感といったものです。
🍅現在でも「几帳面な性格の人はうつ病になりやすい」という教育が行われていますし、世間一般にもそのような認識が浸透しているのは、このテレンバッハと下田の業績から影響を受けたものと考えられます。
🍅ところが、多田(2010)は日本と英米圏の医学テキストを比較したところ、日本のテキストには例外なくテレンバッハのメランコリー親和型性格、下田の執着気質と気分障害との関連が記載されているのに、英米圏のテキストには気分障害に罹患しやすい単一の性格傾向は存在しないとされており、こうした性格が気分障害の病前性格として記載されていないことを発見し、日本はメランコリー親和型性格や執着気質に偏り過ぎたかもしれないと述べています。

↓ 管理人が大学時代(1992年頃)の精神保健学の講義レジュメ(≒配布プリント)。「うつ・躁うつ病」のページに「病前性格」の項目があり、テレンバッハと下田がセットで紹介されていることがわかります。
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(3)最近の動向
🍅このブログの別ページで既に取り上げたように、精神疾患の発症をめぐっては遺伝的要因と環境的要因の相互作用によるとする説が近年有力となっており、特に遺伝的要因を含む生物学的な仕組みの解明が進んでいます。それに伴って、これまでに蓄積されてきた精神疾患と性格との関係についての研究は、生物学的な知見と辻褄を合わせなければならなくなっていることは確かです。

  👀なお、遺伝的要因については以下のページで詳しく取り上げています。

🍅矢島(2002)は大学生に対する実験・調査から、性格特性が心理的・生物学的なストレス反応性に影響を与えているという結果を導いています。また、坂元(2005)や田中(2006)は先行研究から、損害回避、新奇性追求、報酬依存という性格傾向がそれぞれセロトニン神経伝達系、ドーパミン神経伝達系、ノルアドレナリン神経伝達系と関連があるという報告を紹介しています。

  👀なお、神経伝達系については以下のページで詳しく取り上げています。


3.パニック障害およびその周辺の精神疾患と性格との関連



(1)神経症傾向
🍅まず、パニック障害を含む不安障害や、その周辺にある精神疾患・症状(抑うつ、気分障害など)と性格特性をめぐっては、「神経症傾向」という性格傾向との関連がたびたび指摘されています。
🍅神経症傾向とは、一言でいうと傷つきやすさ脅えやすさのことです。不安を感じやすく、かつ、情緒の安定性が低いことを特徴とします。NEO-PI-R(Revised NEO Personality Inventory)という性格検査では、神経症傾向は不安敵意抑うつ自意識衝動性傷つきやすさの6項目で測定されます(下仲ら:1998)。早川ら(1994)は調査を行い、神経症傾向が人間のストレスの受けやすさに影響を及ぼすという結果を導いています。このほか、吉松(1992)は先行研究から、遷延性うつ病の原因の一つとして強い神経症傾向という病前性格があげられるとする報告を紹介しています。


(2)抑うつと性格
🍅次に、抑うつはパニック障害に併存しやすい症状として知られているので、抑うつと性格との関連に言及した研究を整理しておきます。堀江(2009)によると、かつて1970年代頃から、うつ病とは異なる、抑うつという比較的軽度の症状と性格との関連が集中的に研究された時期があったといいます。
🍅田中(2006)は調査から、抑うつに関連する性格要因として損害回避(不安が高いがゆえにリスクを避ける傾向)などをあげています。また、金(2007)は抑うつの慢性化・遷延化に関連する性格要因として規範意識の強さとそれによる束縛臆病小心内向的神経質猜疑的完全主義などをあげるとともに、抑うつ発生理論としてベック(A.T.Beck)の認知の歪み理論を紹介しています。
🍅ベックは、抑うつの人には推論を誤る傾向があると指摘し、以下のような傾向があると指摘しています。

  ・恣意的推論(根拠なくネガティブな結論を導いてしまう)
  ・選択的注目(大きな客観的事実よりも些縮なネガティブなことが気になってしまう)
  ・過度の一般化(わずかな経験からそれが全てであるという結論を下してしまう)
  ・拡大解釈と過小評価(物事の重要性や意義をネガティブな方向に評価してしまう)
  ・個人化(自分に関孫のないネガティブな出来事を自分のことのように考えてしまう)
  ・完全主義・二分法的思考(物事にはグレー部分がなく自黒をはっきりつけないと気が済まない)

🍅このベックの理論は認知心理学のものですが、こうした傾向は性格的特徴として捉えることができるでしょう。

  👀なお、ベックについては以下のページでも取り上げています。


(3)不安障害(パニック障害を含む)と性格
🍅齊藤(1996)は、強迫性障害に結び付きやすい性格として以下の6つの強迫性格制縛性格)をあげています。

  ①柔軟性の欠如
  ②自信欠如・自己不確実性
  ③優柔不断
  ④過去の出来事への執着
  ⑤過敏性・傷つきやすさ
  ⑥両価性の併存(几帳面とだらしなさ、丁重と無礼、清潔と不潔、高慢と自己卑下など)

🍅後山ら(2002)は、病院を受診した女性のパニック障害患者111例を調査し、エゴグラム(簡略な性格テスト)を実施しています。なお、ここでエゴグラムを非常に簡潔に説明しておきます。エゴグラムでは、以下の5つの自我状態が現れます。

  ①親
    ・CP批判的親他者否定)):強い責任感、厳格、批判的、理想主義、完全主義
    ・NP養育的親他者肯定)):思いやり、やさしさ、受容的、同情的
  ②成人
    ・A成人):現実的、客観的事実を重視、冷静
  ③子ども
    ・FC自由な子ども自己肯定)):自由奔放、明朗快活、活動的、創造的
    ・AC順応した子ども自己否定)):他人の評価に敏感、他者優先、遠慮、よい子としての振る舞い

🍅さて、後山らによる調査の結果、「CP<NP」と「FC<AC」が全体の45%を占め、自己否定・他者肯定タイプないし自己犠牲タイプが多いという結果を報告しています。
🍅渡部ら(2012)は、予期不安の原因に関する候補として性格要因をあげた上で調査を行い、5因子モデル(外向性・開放性・情緒不安定性・調和性・誠実性)のうち、情緒不安定性と調和性の要素を持つ人は強いストレッサーを多く感じたときに予期不安を感じやすいとする結果を報告しています。
🍅貝谷(2014①)は先行研究から、パニック障害の病前性格としてやさしさ心配性依存的強がりとこだわりの両価性強い責任感真面目几帳面気にしやすい緊張しやすい否定的評価への恐れ批判への弱さなどの報告をあげているほか、自らの調査によって敏感さ親切協調的などのほかに衝動性怒りやすさ)という性格傾向をあげています。なお、貝谷はパニック障害と性格との関係について、病前性格と発症後の性格変化の2つの意味があると指摘しています。さらに、貝谷(2014②)は先行研究から、パニック障害では明らかなパーソナリティ障害依存性回避性自己愛性境界性が多いとも述べています。
🍅小西・谷井(2014)はパニック障害患者288名に対する調査から、30歳未満の若年発症群は、30歳以上の非若年発症群よりも神経症傾向が有意に高かったと報告しています。


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🍅以上、パニック障害を含む精神疾患と性格についての研究を整理しました。さいごに、性格研究の問題点をあげておきます。
🍅第1に、性格は青年期や成人期になって安定的になるものであるがゆえに、児童期や思春期のそれを評価することが非常に難しいことがあげられます。一方、パニック障害は児童期や思春期にもみられることは確実です。だとすれば、その病前性格を子どもにあてはめること自体が矛盾することになります。
🍅第2に、精神疾患と性格の関連を示す研究は数多く存在しますが、精神疾患の分類が変わったり病名が変わったりすると、その研究が意味をなさなくなるという危うさを抱えています。その最たるものがうつ病で、時代が下るにつれてうつ病の定義が変化し、その範囲が拡大し、そして拡大した病態が別の分類に収まるに及んで、それに対応して病前性格の「あてはめ」もまた変わるというのは土台おかしな話です。
🍅第3に、貝谷(2014①②)が指摘している通り、性格は徐々に変化するものです。これまでに挙げた研究のほとんどはある一時点で性格検査をしたにすぎず、その変化の可能性が考慮されていません。仮に病前性格があったとしても、パニック障害を発症し、その後その性格が成長や学習によってどのように変化していくのかというダイナミズムを捉えることは、パニック障害患者がリハビリテーションをしていく上で非常に大事な部分だと管理人は考えます。


文献

東洋・大山正・詫摩武俊・藤永保編(1970)『心理学の基礎知識』有斐閣.
早川清一・鷲見克典・塹江清志(1994)「神経症的性格特性のストレスへの影響の機制について」『日本経営工学会誌』第45巻第2号、pp135-140.
廣島麻揚・笠井翔太(2013)「うつ病患者の生活困難感:メランコリー親和型うつ病患者とメランコリー親和型でないうつ病患者の2事例の分析から」『京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻紀要:健康科学: health science』第8号、pp31-38.
堀江姿帆(2009)「抑うつ状態、再考―軽度抑うつ状態の人格構造および心的世界に関する今日的理解―」『東京成徳大学臨床心理学研究』第9号、pp21-31.
貝谷久宣(2014①)「『不安・抑うつ発作』発見の歴史(5)パニック性不安うつ病の病前性格と性格変化(前編)パニック障害発症前の性格」『精神療法』第40巻第4号、pp585-593.
貝谷久宣(2014②)「『不安・抑うつ発作』発見の歴史(6)パニック性不安うつ病の病前性格と性格変化(後編)パニック障害のパーソナリティ障害」『精神療法』第40巻第5号、pp729-737.
河野友信(1987)「日本人の強迫的性格と病気」『保健医療と行動科学』第2巻、pp164-173.
金美怜(2007)「抑うつの概観及び抑うつ発生に関する諸理論」『お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター紀要』第4号、pp95-104.
小西喜昭・谷井久志(2014)「パニック障害における発症年齢と人格特性の関連性についての検討」『不安症研究』第6巻第1号、pp25-33.
齊藤文夫(1996)「強迫神経症の鑑別診断のためのTAT指標―臨床場面におけるTAT解釈の手がかり(その4)」『追手門学院大学人間学部紀要』第3号、pp23-34.
坂元薫(2005)「うつ病の病前性格・心因・状況因」『第129回日本医学会シンポジウム記録集』pp15-23.
下仲順子・中里克治・権藤恭之・高山緑(1998)「日本版NEO-PI-Rの作成とその因子的妥当性の検討」『性格心理学研究』第6巻第2号、pp138-147.
多田幸司(2010)「非定型うつ病とパーソナリティ」『精神神経学雑誌』第112巻第11号、pp1091-1096.
田中麻未(2006)「パーソナリティ特性およびネガティブ・ライフイベンツが思春期の抑うつに及ぼす影響」『パーソナリティ研究』第14巻第2号、pp149-160.
辻平治郎・藤島寛・辻斉・夏野良司・向山泰代・山田尚子・森田義宏・秦一士(1997)「パーソナリティの特性論と5因子モデル:特性の概念、構造、および測定」『心理学評論』第40巻第2号、pp239-259.
後山尚久・池田篤・東尾聡子・植木實(2002)「女性のパニック障害に関する発症誘因の心身医学的研究」『日本女性心身医学会雑誌』第7巻第1号、pp70-75.
和気裕之・小見山道(2012)「顎関節症患者の心身医学的な治療の変遷」『日本補綴歯科学会誌』第4巻第3号、pp256-266.
渡部絵美・上淵寿・藤井勉(2012)「予期不安の発生に関する素因ストレスモデルの検討」『東京学芸大学紀要:総合教育科学系Ⅰ』第63号、pp135-143.
矢島潤平(2002)「メンタルストレステストによる心理生物学的ストレス反応に及ぼす性格特性の影響」『別府大学短期大学部紀要』第21号、pp55-61.
吉松和哉(1992)「中高年の遷延性うつ病について」『信州医学雑誌』(信州大学)第40巻第1号、pp27-35.

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